自動車整備士への転職を考える場合、「認証工場」と「指定工場」の違いの理解は不可欠です。
この分類は、単なる車検プロセスの差ではなく、整備士の将来の年収、取得すべき資格、そして働き方を決めるキャリア戦略上の重要な分岐点となります。
この記事では、高収入に直結する「自動車検査員」への道筋や、技術の幅を広げる選択肢など、成功するための判断基準を解説します。
- 認証工場と指定工場の法的・機能的な違いと、それが整備士の役割にどう影響するか
- 指定工場に勤務する整備士が高収入を得やすい経済的な根拠(自動車検査員資格)
- 高収入・管理職を目指すのか、汎用技術のスペシャリストを目指すのか、自分に最適な工場を選ぶ基準
1.自動車整備士のキャリアを変える「認証」と「指定」の基礎知識

認証工場および指定工場は、いずれも道路運送車両法に基づき、地方運輸局長から「自動車特定整備事業の認証」を受けている正規の整備工場です 。この認証により、ブレーキの分解整備など車の安全に関わる重要な作業を行うことができます。
しかし、その業務範囲と責任の重さには、大きな違いがあります。特に、業界全体で整備士不足が続く中、整備士一人ひとりの市場価値は高まっています。
この分類の違いを理解することが、自身の価値を最大化する職場を選ぶための重要な第一歩です。
認証工場:整備士として「技術の幅」を広げるベースキャンプ
認証工場は、車検整備の過程で車の分解整備を行うことが認められています。
ただし、最終的な検査(完成検査)を行う権限は持っていません。そのため、車検の最終工程では、整備を終えた車両を、地方運輸局の検査場(いわゆる「車検場」)に持ち込む必要があります。
認証工場は、一般的に民間工場に多く、特定のメーカーに縛られない多様な車種の整備に携わる傾向があります。
そのため、メーカーの枠を超えた幅広い知識と汎用性の高い技術を身につけたい整備士にとって、多様な経験を積む場となります。
指定工場:整備士の「権威と高収入」を担うキャリアアップの王道
この権限から、「民間車検場」とも呼ばれます 。最大の特権は、整備から最終検査、保安基準適合証の発行までを自社内で完結できることです。
これにより、運輸支局への持ち込みが不要となり、車検の迅速化(即日車検など)が可能になります 。
この時間効率の最適化は、顧客への高い付加価値となり、結果として高待遇・高収入の経済的根拠に繋がっています。
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2.【決定的な違い】整備士の働き方と資格に影響する3つの差
認証と指定の違いは、単に「持ち込み検査があるかないか」だけではありません。
これは、工場にいる整備士の「誰が」「何を」「どのように」行うかという、働き方の根幹に関わる違いです。
人員の差異:一般整備士と「自動車検査員」の法的責任と年収アップ
指定工場と認証工場を分ける最も大きな要素は、「自動車検査員」の存在です。
- 認証工場:自動車検査員の配置義務はありません。
- 指定工場:自動車検査員(国家資格)の配置が必須です。
その責任の重さから、整備業界では「みなし公務員」に準ずる重い責任を負うと表現されることもあります。
自動車検査員は、整備士として現場を経験した者がステップアップできる、高い専門性を持つ資格の一つです。この資格を取得すると、資格手当や役職手当が支給されるため、年収が大幅にアップします。

指定工場への転職や派遣を考えることは、この「自動車検査員」という、高収入と権威性を持つキャリアへの道筋を視野に入れることと直結します。
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車検プロセスの差異:工場から「検査場」へ変わる整備士の役割
車検のプロセスにおける違いは、整備士の仕事の役割と効率性を大きく左右します。
- 認証工場(持ち込み)
整備を終えた後、運輸局への「持ち込み検査」のための人員と時間が必要です。
整備士は、整備作業に加え、持ち込みのための移動・待機時間も考慮したスケジュール管理が求められます。 - 指定工場(自社完結)
検査員による最終検査を自社内で完結できます。整備士は、外部に車両を持ち出すことなく、効率的に整備作業に集中できます。
「即日車検」のような迅速なサービス提供を可能にするため、整備士には高い技術精度と効率的な作業が求められ、これが生産性の高い働き方に繋がります。
設備の差異:指定工場の検査ラインは「最先端技術」習得の証
指定工場となるためには、ブレーキテスター、スピードメーターテスター、排気ガステスターなどの高額な「完成検査場」の設備を備えることが、国によって義務付けられています。
これは、整備士にとって以下の点で重要です。
- 高度な技術基準
高額な設備を持つ指定工場は、その設備の維持・利用のための研修が充実しており、最新の検査技術やノウハウを習得できる環境にあります。 - 最新技術への対応
特に最近の車は、ADAS(先進運転支援システム)などの電子制御化が進んでいます。
指定工場が持つ検査設備は、これらの複雑な電子システムを適切に診断・整備するための最先端技術に触れる機会が多いことを意味します。
2024年4月の経過措置終了に伴い、ADAS(先進運転支援システム)の整備などを含む「特定整備」は、認証工場・指定工場を問わず、対応が必須となりました。
■派遣という選択肢で指定工場のキャリアを目指す
自動車検査員を目指せる指定工場で働きたいけれど、いきなりの転職は不安という方には、派遣という働き方がおすすめです。カラフルスタッフィング メカニックは、車両整備士・メカニックに特化した人材派遣サービスです。専門のコーディネーターが希望に合ったお仕事をご提案し、有名ディーラーでスキルや経験を積めるチャンスもあります。まずは派遣で指定工場の環境を体験してから、正社員への道を検討することも可能です。
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3.工場選びが未来を決める:整備士のキャリア戦略と給与の相関図

認証工場と指定工場、どちらが優れているということではありません。
重要なのは、あなたが整備士として目指す将来像に、どちらの工場が合っているかという視点です。あなたのキャリア戦略に合わせて、最適な職場を選びましょう。
高収入・管理職を目指すなら「検査員への道」がある指定工場
指定工場は、特に正規ディーラーに多く、組織的なキャリアパスが明確です。給与水準も民間整備工場よりも高い傾向にあります。
指定工場で働くメリット
- 高収入・高待遇
整備士の平均年収は、民間工場と比較して100万円以上高いデータもあります。 - 明確な昇進ルート
一般整備士から整備主任者、そして「自動車検査員」を経て、サービスフロントや工場長といった管理職への道筋が明確です。 - 技術の専門性
特定メーカーの最新技術に関するメーカー研修が充実しており、最先端技術のスペシャリストを目指せます。
指定工場に向いている人
- 高収入と安定した待遇を最優先したい人。
- 自動車検査員資格を取得し、管理職としてマネジメントにも携わりたい人。
- 特定のメーカーの技術を深く掘り下げたい人。
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ディーラー系の指定工場への転職を考えている方は、メーカー別の年収情報も重要な判断材料になります。各メーカーの整備士年収を比較して、最適な転職先を見つけましょう。
幅広い技術を追求するなら「多様な経験」が積める認証工場
認証工場は、中小の民間整備工場に多く、顧客との距離が近く、自由度の高い働き方ができる場合があります。
認証工場で働くメリット
- 汎用技術の習得
特定メーカーに縛られず、多様なメーカー・車種の整備に携われるため、幅広い技術と知識が身につきます。 - 独立開業への道
整備技術だけでなく、顧客対応や経営のノウハウも肌で学べるため、将来的な独立開業を視野に入れる人にとって最適な環境です。 - 柔軟な働き方
比較的、残業が少ない工場や、地域に根差したアットホームな雰囲気の職場も多いです。
認証工場に向いている人
- あらゆる車種の整備技術を極めたい技術志向の人。
- 将来的に自分自身の工場を持ちたいと考えている人。
- 顧客と直接コミュニケーションを取りながら、整備の全体像を把握したい人。
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認証工場・指定工場への転職を成功させるには、志望動機の書き方が重要です。書類選考を突破するための具体的なテクニックと例文を紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
■派遣なら時給1,800円以上も!高収入を実現する働き方
指定工場での高収入を目指すなら、派遣という選択肢も検討する価値があります。カラフルスタッフィング メカニックでは、時給1,800円以上の高待遇案件も多数ご用意。大手ディーラーの指定工場での勤務も可能で、正社員と同等の研修制度を利用しながら、自動車検査員資格の取得を目指すこともできます。専門のコーディネーターが、あなたのキャリアプランに合わせた最適な職場をご提案します。
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4.未経験者・転職者が今すぐチェックすべき工場選びの基準

認証工場と指定工場のどちらを目指すにせよ、転職活動で失敗しないためには、事前の情報収集とチェックが不可欠です。
工場見学で必ずチェックすべき「2つの標識」
工場が認証か指定かを判断する最も簡単な方法は、掲げられている看板です。
- 認証工場
工場の外に、青い看板で「指定自動車整備事業」と表示されています。これは運輸支局に代わって車検(完成検査)を行える「民間車検場」の証です。 - 指定工場
黄色または緑色(若草色)の看板が掲げられています。
・黄色の看板:伝統的な「自動車分解整備事業」の認証を示します。
・緑色の看板:2020年4月から、ADAS(先進運転支援システム)の整備などを含む「電子制御装置整備」も行える、新しい「自動車特定整備事業」の認証を示します。
この2つの標識の有無を確認することで、あなたが希望するキャリアパス(高収入・検査員への道か、汎用技術の道か)に適した工場であるかを判断できます。
求人情報で確認すべき「資格取得支援」と「検査員の配置」
特に未経験者や三級整備士の方は、以下の2点を確認しましょう。
- 資格取得支援制度の有無
どの工場を選ぶにせよ、二級整備士や自動車検査員などの資格取得は必須です。研修費用や受験費用を会社が負担してくれる制度があるかを確認しましょう。 - 自動車検査員の配置状況
指定工場を目指す場合、検査員の人数や、検査員教習への参加実績を確認することで、その工場があなたのキャリアアップを真剣に考えているかを測ることができます。
高収入と管理職への道を明確に目指すなら「指定工場」へ、幅広い技術を極めたいなら「認証工場」へと、あなたの目標に合った選択をすることが、成功への最短ルートとなります。
あなたのキャリアプランに最適な工場選びに迷いがある場合は、資格取得支援制度や検査員の配置状況を事前に確認することが、成功への第一歩となります。
■未経験からでも安心!派遣で始める整備士キャリア
未経験から整備士を目指す方、転職に不安がある方こそ、派遣という働き方がおすすめです。カラフルスタッフィング メカニックなら、資格取得支援制度が充実した職場や、丁寧な研修体制がある工場をご紹介できます。認証工場から指定工場まで、あなたの希望するキャリアパスに合わせた職場選びを、専門コーディネーターが全面サポート。まずは派遣で経験を積みながら、自分に合った働き方を見つけることができます。
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5.認証工場と指定工場:キャリアを決定づける戦略的な選択
自動車整備士としてのキャリアを成功させるには、認証工場と指定工場の違いを単なる工場分類としてではなく、「キャリアの選択肢」として捉えることが重要です。
この記事で解説した通り、高収入と管理職への道を明確に目指すなら、自動車検査員資格の取得が必須となる指定工場が最も経済合理性に優れたルートとなります。
一方、メーカーに縛られず幅広い車種で技術を磨き、将来的に独立を視野に入れるなら、認証工場で汎用性を高める道も非常に魅力的です。
選択肢が多いことは、時に迷いの原因となりますが、「目指したい整備士像」を明確にすれば、進むべき工場は一つに定まります。
どちらの道を選んだとしても、国家資格取得への努力と、技術革新に対応するための学びの姿勢は不可欠です。
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認証工場・指定工場それぞれのメリットを理解したら、次は具体的な転職活動です。整備士に特化した転職サイトを活用することで、希望に合った工場を効率的に見つけられます。