街中を走るタクシーの多くが、ガソリンではなく「プロパンガス(LPガス)」を燃料にして走っていることはご存じでしょうか。見た目は一般的な乗用車と変わらないため、不思議に思う方も多いかもしれません。
この記事では、タクシーがLPガスを燃料として採用している理由や、一般車との違い、そしてドライバーの働き方に与える影響について詳しく解説します。
- タクシーの燃料がガソリンではなくLPガスである理由
- 一般車にLPガスが普及しない理由とドライバー目線での実態
- LPガスタクシーの今後の動向と次世代エネルギーへの移行
1.タクシーの燃料がガソリンではなく「LPガス」である3つの理由

タクシー業界で長年にわたりLPガス(LPG)が選ばれ続けている背景には、経営面や環境面における明確な利点が存在します。ここでは、大きく3つの理由に分けて解説します。
燃料代の安さがタクシーの運行コストと経営を支える
タクシー事業において、燃料代は経営を左右する重要なコストです。LPガスは、ガソリンに比べて燃料単価が低い水準で推移してきた実績があり、日常的に長距離を走行するタクシーにとって、燃料コストの抑制につながりやすい燃料といえます。
この背景には税制の違いもあります。2025年12月31日に、ガソリンにかかる揮発油税・地方揮発油税の暫定税率が廃止され、本則税率が適用されるようになりました。
| 燃料 | 税目 | 現行の税率 |
|---|---|---|
| ガソリン | 揮発油税+地方揮発油税 | 28.7円/L(24.3円+4.4円) |
| LPガス | 石油ガス税 | 17.5円/kg |
単位が異なるため単純な比較はできませんが、LPガスは依然としてガソリンより低い税負担とされています。なお、今回の税制改正によりガソリンとの税負担差は以前より縮小している点には留意が必要です。
参考:LPガス自動車普及促進協議会|LPG車とは経済性・新電力ネット|LP(プロパン)ガス価格の推移(詳細データ)・国税庁|揮発油税等の特例税率の廃止について
排気ガスが比較的クリーンで都市部の環境負荷の低減が期待できる
LPガスは、燃焼時の排出ガスが比較的クリーンであるという特性を持っています。黒煙などの粒子状物質(PM)の排出が少なく、CO2排出量もガソリン車より少ない傾向があるとされており、都市部を一日中走行するタクシーの燃料として環境負荷の低減に寄与していると考えられます。
エンジン内部にススが発生しにくく車両の耐久性向上につながる
LPガスは不純物が少なく、エンジン内部で燃焼した際にススなどの汚れが発生しにくいという特徴があります。これにより、エンジンオイルの劣化ペースが緩やかになりやすく、車両のメンテナンス性の向上につながるとされています。
結果として、年間走行距離が長いタクシー車両を長く運用しやすくなる一因と考えられます。
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燃料コストや税制の違いは、タクシー会社の経営を通じてドライバーの給与体系にも間接的に影響しています。以下の記事では、タクシードライバーの4つの代表的な給与体系の特徴を解説していますので、あわせてご覧ください。
2.一般の自家用車にLPガスが普及しない2つの理由

タクシーにとってメリットの多いLPガスですが、一般の自家用車にはほとんど普及していません。
その背景には、インフラ面と車両構造という2つの大きな要因があります。なお、法人タクシー車両の7割超がLPG車である一方、全国のLPガススタンド数は減少傾向にある点も押さえておきたいポイントです。
全国のLPガス専用スタンドの数が限られており給油インフラが乏しい
一般車に普及しない大きな理由のひとつが、燃料を充填するLPガス専用スタンド(オートガススタンド)の数が限られていることです。
一般的なガソリンスタンドのようにどこにでもあるわけではなく、長距離のドライブや旅行の際には燃料切れのリスクが伴うため、自家用車としての利用には不便が生じやすくなります。
参考:国土交通省|カーボンニュートラルに向けた業界ヒアリング
参考:日本LPガス協会|LPG車の特長
トランクスペースの圧迫とLPGタンクの特殊な定期検査が負担になる
LPガスを燃料とする車両は、ガスを貯蔵するための専用タンクを、多くの場合トランクルーム内のスペアタイヤスペースに搭載しています。これにより、スペアタイヤを積めなくなるほか、荷物を積むスペースも制限されてしまいます。
さらに、LPGタンク(LPガス容器)は高圧ガス保安法に基づき、車検とは別に容器再検査を受ける義務があり、検査周期は容器の使用年数によって次のように定められています。
- 使用開始から20年未満の容器:6年に1回
- 使用開始から20年以上の容器:2年に1回
なお、タクシーのように毎年車検を受ける事業用車両では、最初の容器検査に限り、車両の6年目の車検のタイミングまで(最長11か月)延長できる運用があります。
こうした維持費や手間がかかる点も、一般ユーザーにとってはハードルとなっています。
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3.現役タクシードライバーの視点で見るLPガス燃料のリアルな実態

LPガス車の特徴は、日々の業務にあたるタクシードライバーの働き方にも直接的な影響を与えています。現場の視点から見た実態を解説します。
エンジンの振動や騒音が少ないため長時間の乗務でも疲れにくい
LPガスエンジンは、ガソリンエンジンと比較して振動や騒音が少ないという特徴があります。長時間の乗務において、車内の静粛性や振動の少なさはドライバーの身体的負担を軽減する要素になります。
これは、乗客に快適な乗り心地を提供するだけでなく、ドライバー自身の疲労蓄積を防ぎ、安全運転を維持する上でも重要なポイントです。
指定のガススタンドを利用するサイクルが日々の業務リズムを形成する
タクシー会社は通常、特定のLPガススタンドと契約を結んでいます。そのため、ドライバーは営業の合間や業務の終了時に、指定されたスタンドへ燃料を充填しに戻る必要があります。
前述の通りLPガススタンドの数は地域によって限られているため、営業エリアとスタンドの位置関係によっては、給油のための移動時間が実車率(乗客を乗せて走行する時間の割合)に影響する場合もあります。
この「スタンドでの充填」という行為が休憩や情報交換の場となることもあり、ドライバーの日々の業務リズムを形成する一つの要素となっています。
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4.タクシー燃料の将来性と次世代車両へのシフトがもたらす変化

近年、自動車業界全体の技術革新や環境規制の強化に伴い、タクシーの燃料インフラや車両にも変化が訪れています。
JPN TAXI普及で進んだLPGハイブリッド化と燃費データで見る進化
現在、街でよく見かけるようになったトヨタの「JPN TAXI(ジャパンタクシー)」は、LPガスと電気モーターを組み合わせたLPGハイブリッドシステムを採用しています。トヨタの公式データと日本LPガス協会のデータを比較すると、燃費性能の向上が数値で確認できます。
| 車両 | 燃費 |
|---|---|
| JPN TAXI(LPGハイブリッド、国交省審査値・2026年5月時点) | 16.5〜16.6 km/L |
| 従来型LPGタクシー車両(クラウンコンフォート等) | 9.8 km/L |
従来型と比べて約1.7倍の燃費性能となっています。この燃費向上は運行コストの低減につながる一方、LPガスの消費量そのものを押し下げる要因ともなり、前述したLPガススタンドの減少という課題とも関係していると考えられます。
参考:トヨタ自動車|JPN TAXI 走行性能・日本LPガス協会|LPG車の特長
業界の脱炭素化トレンドを受けたEV(電気自動車)タクシーへの移行事例
世界的な脱炭素化(カーボンニュートラル)の流れを受け、タクシー業界でもEV(電気自動車)への移行を見据えた動きが見られます。
例えば、京都に本社を置くMKグループは、2021年にタクシー会社として全国で初めて「2025年に保有車両の30%、2030年までに全車ZEV(電気自動車・燃料電池車等)化」を目指すと表明しました。
自社運営のLPガススタンドは2021年9月に営業を終了し、LPガス専用車も2022年2月に使用を終了しています。同社の発表によれば、2025年3月末時点のZEV導入状況は次のとおりです。
| 会社 | ZEV台数 | 自社車両に占める割合 |
|---|---|---|
| エムケイ(京都) | 223台 | 27% |
| 東京エムケイ | 48台 | 18% |
| 大阪エムケイ | 12台 | 6% |
| 滋賀エムケイ | 8台 | 12% |
| 神戸エムケイ | 8台 | 5% |
| 福岡エムケイ | 6台 | 8% |
| 名古屋エムケイ | 4台 | 4% |
| 札幌エムケイ | 2台 | 2% |
上記を合計すると、グループ全体では311台となります。長年業界を支えてきたLPガスから次世代エネルギーへの転換は事業者によって進捗状況が異なるため、最新の動向は各社の発表をご確認ください。
参考:MKグループ|SDGsの取り組みと全車ZEV化・エムケイホールディングス|MKグループが2025年度上半期の成果を発表(PR TIMES)
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5.タクシーの燃料に関するよくある質問

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LPガスを燃料にしたタクシーは安全なの?
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LPGタンク(LPガス容器)は高圧ガス保安法に基づき、車検とは別に容器再検査(使用開始から20年未満の容器は6年に1回、20年以上の容器は2年に1回)を受けることが義務付けられており、一定の安全基準を満たした車両が運行しています。
国内では長年にわたり多くのタクシー車両がLPガスを燃料として使用してきた実績がありますが、気になる点があれば運輸支局や整備工場などの専門機関に確認することをおすすめします。
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一般の自家用車をLPガス仕様に改造することはできる?
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改造事業者によるLPG化改造(バイフューエル仕様など)は技術的には可能ですが、対応可能な車種や費用は改造事業者によって異なります。
改造を検討する場合は、複数の改造事業者へ具体的な見積もりを確認することをおすすめします。
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燃料価格が高騰した場合、タクシー事業者向けの支援制度はある?
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国土交通省は、LPガス価格の急激な上昇に対してタクシー事業者を支援する「燃料価格激変緩和対策事業」を継続的に実施しています。
申請期間や支援内容は期ごとに更新されるため、最新の実施状況は国土交通省や事業の事務局サイトでご確認ください。
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LPガスとガソリンでは、実際にどのくらい燃料代が違うの?
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単価は時期や地域によって変動するため一概には言えませんが、税制面では明確な差があります。国税庁によると、ガソリンにかかる揮発油税・地方揮発油税は2025年12月31日の税制改正により1リットルあたり28.7円となりました。
一方、LPガスにかかる石油ガス税は1キログラムあたり17.5円です。単位が異なるため単純な比較はできませんが、LPガスの方が税負担は低い水準にあるとされています。正確な燃料単価は、石油情報センター等の最新の価格情報でご確認ください。
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6.まとめ|タクシーがLPガスを選び続ける理由と、これからの燃料事情
タクシーがLPガスを燃料として採用しているのは、燃料コスト・環境性能・車両の耐久性という3つの観点でメリットがあるためです。一方で、LPガススタンドの少なさやタンクの定期検査といった制約から、一般の自家用車にはあまり普及していません。
ドライバーにとっては、給油のためのスタンド利用が日々の業務リズムに影響する要素でもあります。また、JPN TAXIのLPGハイブリッド化や一部事業者のEVシフトなど、業界の燃料事情は少しずつ変化しています。
最新の制度や支援策については、国土交通省など公的機関の発表もあわせてご確認ください。
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