介護タクシーでの独立を考えるとき、多くの人が気にするのが「廃業率」です。高齢化で需要が見込まれる分野ではあるものの、準備不足のまま開業すると、依頼が集まらず資金が尽きてしまうケースもあります。
この記事では、介護タクシーの廃業率を考えるうえで参考になる公的データと業界の倒産動向を整理したうえで、トラック・タクシーなど運転の仕事から独立する人がつまずきやすいポイントと、その回避策を解説します。
- 介護タクシーの廃業率を考えるうえで参考になるデータと、その読み方
- 開業後に廃業へ追い込まれやすい原因と、ドライバー出身者が直面しやすいギャップ
- 廃業リスクを抑える開業準備と、経営が厳しくなった場合の選択肢
1.介護タクシーの廃業率に公式統計はない|参考になる2つのデータ

結論から言うと、介護タクシー事業だけに絞った廃業率の公式統計は公表されていません。そのため、実態を考える際は「個人で開業した事業の生存率」と「介護事業者の倒産動向」という2つのデータを手がかりにするのが現実的です。
個人で開業した事業の廃業率は調査によって大きく異なる
個人で開業した事業の廃業率・生存率は、調査によって数字が大きく異なります。
| 調査 | 対象 | 結果 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 中小企業白書(2006年版)とされるデータ | 製造業の事業所を対象にしたものとされる | 「個人事業主は3年で約6割が廃業する」として引用されることが多い | 個人事業主全般を対象にした数字ではないとみられる |
| 中小企業白書(2017年版) | 民間データベースに収録された企業 | 起業3年後の生存率88.1% | 実際より高めに出る可能性がある |
| 日本政策金融公庫「新規開業パネル調査」 | 公庫の融資を受けて2016年に開業した企業 | 2020年末までの廃業率8.9% | 融資先に限られ、廃業率は低めに出やすい |
数字は調査によって大きく異なりますが、どの調査でも、開業から数年のうちに一定の割合の事業が続けられなくなっていることが分かります。
出典:中小企業庁|2017年版 中小企業白書 第2部第1章 起業・創業
出典:日本政策金融公庫|「新規開業パネル調査」~アンケート結果の概要~
2025年の訪問介護事業者の倒産は91件で3年連続の過去最多

介護タクシーと関わりの深い介護業界の倒産動向も確認しておきましょう。
東京商工リサーチの集計では、2025年の介護事業者(老人福祉・介護事業)の倒産は176件で、2年連続で過去最多を更新しました。このうち訪問介護は91件と3年連続で最多を更新し、全体の件数を押し上げています。
同調査では、訪問介護の倒産が増えた背景として、介護報酬のマイナス改定の影響、ヘルパー不足、ガソリン代など運営コストの上昇が挙げられています。
出典:東京商工リサーチ|2025年「介護事業者」倒産 過去最多の176件 「訪問介護」の倒産が突出、認知症GHも増加
データから読み取れるのは「小規模×売上不振」の厳しさ
同じ調査では、倒産原因の約8割(79.5%)が売上不振で、倒産した事業者の約8割(80.6%)が従業員10人未満の小・零細事業者でした。
車両1台・運転者1人から始めることが多い介護タクシーも、この層に近いリスク構造になりやすいと考えられます。開業後できるだけ早く依頼が安定して入る状態をつくれるかが、廃業を避ける分かれ目になります。
なお、この倒産件数は負債1,000万円以上の倒産を集計したもので、自主的な廃業は含まれず、介護タクシー単体の数字でもありません。
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運転を軸にした独立という選択肢は、介護タクシーに限りません。以下の記事では、軽貨物ドライバーの仕事内容や給料、独立して働くメリットについて詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
2.介護タクシーが「儲からない」まま廃業へ追い込まれる3つの原因

需要が見込まれる分野であっても、開業後に経営が行き詰まる事業者には共通する原因があります。ここでは、介護タクシーで廃業につながりやすい「営業不足」「単価の低さ」「運転資金の不足」の3つを取り上げます。
待っているだけでは依頼が来ず、ケアマネジャーへの営業が欠かせない
開業すれば自然と依頼が入るわけではありません。
介護タクシーの利用者は、ケアマネジャーや医療機関の相談員を通じて事業者を知ることがあります。地域のケアマネジャーや病院への営業を後回しにすると、稼働が上がらず収入を確保できない状態が続きます。
営業先や伝え方のポイントは、4章で紹介します。
介護保険の乗降介助と運賃だけに頼ると単価が上がりにくい
介護タクシーの収入は、主にタクシーとしての運賃と、訪問介護事業所の指定を受けている場合の介護保険サービス(通院等乗降介助など)の報酬で構成されます。このうち介護保険の報酬は国が定める公定価格のため、事業者が自由に引き上げることはできません。
たとえば、令和6年度の介護報酬改定後の通院等乗降介助の報酬は1回97単位と定められています。
一方で、燃料費や車両の維持費は上がることがあります。運賃と保険内サービスの収入だけに頼った計画では、コストの上昇分を吸収しにくくなります。
出典:厚生労働省|介護報酬の算定構造(社会保障審議会介護給付費分科会 第239回 参考資料2-1)
稼働が安定する前に運転資金が尽きてしまう
依頼が安定して入るようになるまでには、一定の期間がかかります。開業時の車両購入費や設備費だけを用意し、その後の生活費や経費の余裕を見込んでいないと、稼働が軌道に乗る前に資金が底をついてしまいます。需要の見込み違いが重なると、早期の廃業につながりやすくなります。
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会社員として働く場合の収入の仕組みと比べておくことも、開業前の判断材料になります。以下の記事では、タクシードライバーの4つの代表的な給与体系の特徴を解説しています。
3.ドライバー出身者が介護タクシー開業で直面しやすい3つのギャップ

トラックやタクシーで経験を積んだドライバーにとって、運転を軸にした介護タクシーは挑戦しやすい選択肢の一つです。ただし、会社員として運転していたときとは仕事の中身が大きく変わります。開業前に把握しておきたいギャップを整理します。
運転以外の営業・介助・事務まで一人で担う
会社に所属していれば、配車や営業、請求などは会社が担ってくれます。個人で開業すると、ケアマネジャーへの営業、予約の受付、乗降時の介助、運賃や介護保険の請求事務まで、基本的にすべて自分で対応することになります。
運転技術とは別に、こうした業務に割く時間と手間を見込んでおく必要があります。
予約制のため稼働に波があり、空き時間が収入にならない
介護タクシーは通院や外出の予約に合わせて動くため、一般的には、通院の予約が入りやすい時間帯に利用が集中し、それ以外の時間帯は空きやすいといった波が出ることがあります。また、通院の付き添いでは病院での待ち時間が発生することもあります。
待機時間や空き時間をどう料金や別のサービスに結びつけるかを、事前に考えておくことが大切です。
二種免許・介護資格・福祉車両・事業許可の準備に時間がかかる
介護タクシーの開業までには、次のような準備を並行して進める必要があります。どれも時間がかかるため、早めに計画に組み込んでおきましょう。
- 普通自動車第二種免許
運転者に法律上必要です。トラックドライバーなど二種免許を持っていない人は、取得までの期間と費用を開業計画に含めます - 介護資格(介護職員初任者研修など)
すべての介護タクシーに一律で必要なものではありません。ただし、介護保険の通院等乗降介助を提供するために訪問介護事業所の指定を受ける場合は、修了した人員が必要です - 福祉車両
車いすやストレッチャーに対応した車両を手配します - 運輸局の許可
一般乗用旅客自動車運送事業(福祉輸送事業限定)の許可を申請します
許可の要件や必要な手続きは変更されることがあるため、最新の内容は管轄の運輸支局で確認してください。
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普通自動車第二種免許の取得方法や費用、期間をより詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。
4.ドライバーの強みを活かして失敗を回避し、廃業リスクを抑える3つのポイント

ギャップがある一方で、運転の仕事で積み重ねた経験は介護タクシーでも生かせます。ここでは、ドライバーの強みを土台にしながら、稼働と収入を安定させて廃業リスクを抑えるための3つのポイントを紹介します。
安全運転の技術と丁寧な接遇を組み合わせて選ばれる理由をつくる
運送業務で身につけた安全運転の技術、日常点検の習慣、時間を守る意識は、介護タクシーでもそのまま強みになります。体の不自由な利用者を乗せる仕事では、急ブレーキや急発進を避けた穏やかな運転が安心感につながります。
これに利用者や家族への丁寧な声かけ・接遇が加わると、「またこの事業者に頼みたい」と思ってもらいやすくなります。継続利用やケアマネジャーからの紹介は、安定した稼働の土台になります。
介護保険外のサービスを組み合わせて客単価を上げる
収入を安定させるには、介護保険の枠にとらわれない保険外サービスを組み合わせる方法があります。
たとえば、買い物への同行、墓参りの送迎、冠婚葬祭や旅行への付き添いなど、利用者のニーズに合わせたサービスを用意します。
保険外サービスを組み立てる際は、料金の種類によって必要な手続きが異なる点に注意が必要です。
- 介助料など運送に直接伴わない料金
運輸局の認可や届出は不要とされており、事業者が内容と価格を設計できます - 車で運ぶ部分の運賃
道路運送法第9条の3により、国土交通大臣(窓口は管轄の運輸局)の認可が必要です - 運賃以外の料金の一部
認可の対象外とされているものがあり、届出などの扱いは運輸支局での確認が必要です
保険外サービスは公定価格に左右されにくい収入源になり、午後の空き時間に充てるなど稼働の波をならす工夫にもつながります。認可や届出の手続きに漏れがないよう、事前に管轄の運輸支局で確認しましょう。
出典:関東運輸局|一般乗用旅客自動車運送事業の運賃及び料金(福祉輸送サービスに限る。)に関する制度について
地域の医療機関や介護施設と顔の見える関係を築く
安定した集客には、地域に根ざしたつながりが欠かせません。
ケアマネジャーに加え、病院の医療ソーシャルワーカーや、老人ホームなどの介護施設にも足を運び、対応できる車両や介助の内容、営業時間を具体的に伝えます。
継続的に紹介してもらえる関係ができると、営業にかかる負担も徐々に軽くなります。
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二種免許の取得や福祉輸送の経験は、独立前にまず会社員として積むという方法もあります。以下の記事では、未経験からドライバーに転職する方法や、会社選びのポイントを詳しく解説しています。
■いきなり独立する前に、経験を積める職場で準備しませんか
いきなり独立する前に、二種免許の取得支援や福祉輸送の経験を積める職場で準備するという方法もあります。条件に合う求人をチェックしてみましょう。
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5.経営が厳しくなったときの選択肢|廃業手続きと事業譲渡

どれだけ準備をしても、経営環境の変化などで事業の継続が難しくなる可能性はあります。いざというときに慌てないよう、廃業に必要な届出と、廃業以外の出口となる事業譲渡について知っておきましょう。
廃業には運輸局と自治体への届出が必要になる
事業からの撤退を考える状況になった場合に備え、手続きの概要を知っておくことはリスク管理の一つです。介護タクシー(福祉輸送事業限定の一般乗用旅客自動車運送事業)を休止・廃止する場合は、運輸局と自治体の両方に手続きが必要です。
| 届出先 | 根拠 | 期限・内容 |
|---|---|---|
| 国土交通大臣(窓口は管轄の運輸局・運輸支局) | 道路運送法第38条 | 休止・廃止の30日前までに届出。休止・廃止する旨を営業所などに掲示することも必要 |
| 自治体(介護保険サービスの指定を受けている場合) | 介護保険法第75条第2項 | 廃止・休止の日の1か月前までに届出 |
自治体への届出の際は、利用者の引き継ぎ先の確保などを求められることがあるため、早めに管轄の自治体へ相談しましょう。
出典:e-Gov法令検索|道路運送法
出典:名古屋市|廃止・休止・再開届出について
廃業だけでなく事業譲渡(M&A)という出口も検討する
事業を完全に畳む「廃業」だけでなく、車両や顧客との関係などを他の事業者に引き継ぐ「事業譲渡」という選択肢もあります。事業譲渡はM&A(企業や事業の合併・買収)の手法の一つで、法人の場合は会社ごと引き継いでもらう「株式譲渡」という方法もあります。
引き継ぎ先が見つかれば、利用者へのサービスを途切れさせずに撤退できる可能性があり、借入金の整理や従業員の雇用継続を図る手段にもなり得ます。なお、事業の譲渡には運輸局や自治体での手続きが別途必要になるため、早めに管轄の運輸支局と自治体に確認しましょう。
中小企業庁の小規模企業白書(2025年版)では、個人企業の約4割が自らの代での廃業を考えている様子がうかがえるとされる一方、各都道府県には公的な相談窓口として「事業承継・引継ぎ支援センター」が設置されていることが紹介されています。
撤退を考える際は、こうした窓口や税理士・行政書士などに相談し、負担の少ない方法を検討することが大切です。
出典:中小企業庁|2025年版 小規模企業白書 第9節 事業承継
6.介護タクシーの廃業を避けるための開業準備3ステップ

ここまで見てきた廃業の原因の多くは、開業前の準備で備えることができます。最後に、介護タクシーの廃業を避けるために開業前に取り組みたい準備を、3つのステップで整理します。
ステップ1:市場調査をもとに、数か月分の運転資金を含めた事業計画を立てる
開業前に最も重要なのは、現実的な事業計画をつくることです。地域の高齢者人口や競合事業者の数を調べ、どの程度の需要が見込めるかを分析します。
そのうえで、車両費や保険料などの初期費用に加え、稼働が安定するまでの数か月分の運転資金(生活費を含む)を見込んでおくと安心です。
保険外サービス(買い物や墓参りの付き添いなど、介助・付き添い部分の料金を事業者が設計できるサービス)の売上も、この段階で計画に組み込んでおきましょう。
ステップ2:需要が見込めるエリアを選び、開業前から営業を始める
既存の事業者が少なく、病院や介護施設が集まっているなど、需要が見込める地域を選ぶことが有利なスタートにつながります。
許可や車両の準備が整うのを待つのではなく、開業の数か月前から地域のケアマネジャーや医療機関へあいさつに回り、開業時点で依頼が入る状態を目指します。
ステップ3:必要な資格を取得し、利用者に合った福祉車両を用意する
普通自動車第二種免許の取得に加え、介護職員初任者研修などの介護資格を取得しておくと、乗降時の介助を適切に行えるようになり、サービスの質も高まります。
車両は、想定する利用者が車いすを使うのか、ストレッチャーでの移動が必要なのかに合わせて、リフトやスロープの仕様を選びましょう。
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開業前の準備には時間も費用もかかります。まずは安定した会社で経験を積みながら準備を進めたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。タクシー会社ごとの給与体系や福利厚生の違い、配車アプリの導入で働き方がどう変わるかを解説しています。
■開業準備の前に、まずは経験を積める会社を比較しませんか
市場調査や資格取得、車両の準備など、開業までにやるべきことは多岐にわたります。まずは福祉輸送の経験を積める会社で働きながら準備を進めるのも一つの方法です。希望条件に合う求人を、アドバイザーが無料でご紹介します。
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7.介護タクシーの廃業率に関するよくある質問

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介護タクシーのフランチャイズに加盟すれば廃業リスクは下がりますか?
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フランチャイズに加盟すると、開業手続きの支援や集客ノウハウ、ブランドの知名度を活用できる場合があります。
一方で、加盟金やロイヤリティなどの費用が継続的にかかるため、収支計画によってはかえって負担が重くなることもあります。契約内容と費用、支援の範囲を比較し、自力で開業する場合の収支と見比べたうえで判断しましょう。
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介護タクシー事業を「休止」と「廃止」のどちらにするか迷ったときはどうすればよいですか?
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休止は将来の再開を前提に一時的に事業を止めること、廃止は事業を終えることです。
介護保険サービスの休止期間は自治体ごとに目安が定められている場合があり、期間内に再開の見込みが立たないときは廃止の届出を求められることがあります。
再開の可能性があるかどうかを整理したうえで、早めに運輸支局と自治体の窓口へ相談してください。
8.まとめ|介護タクシーの廃業を避ける鍵は開業前の営業・収支計画・運転資金の準備
介護タクシーだけの廃業率を示す公式統計はありません。ただし各種調査からは、開業から数年のうちに一定数の事業が続けられなくなっていること、介護事業の倒産の大半は売上が伸びない小規模事業者であることが読み取れます。
ドライバー出身者にとって、安全運転の技術は大きな強みです。ただし、独立後は運転に加えて営業・介助・事務まで担い、稼働の波とも向き合うことになります。開業前からの営業、保険外サービスを含めた収支計画、数か月分の運転資金の確保を意識して準備を進めましょう。