タクシーの高速ボタンは、高速道路を走る間の「時間による運賃加算」を止め、走行距離だけで運賃を計算するメーター機能です。操作を誤ると、お客様に本来とは違う金額を請求することになります。
この記事では、高速道路を使うと運賃がどう変わるかを東京の運賃で試算します。あわせて、ドライバー向けの操作手順や押し忘れ時の対応、帰りの高速代の扱いを公的資料をもとに解説します。
- タクシーの高速ボタンの役割と、時間距離併用制運賃との関係
- 乗車前の確認からSA・PAでの停車、一般道への合流までの操作手順
- 押し忘れが問題になる理由と、気づいたときの対応・帰りの高速代の扱い
1.タクシーの高速ボタンとは?時間加算を止めるメーター機能
高速ボタンの役割を知るには、まず一般道でメーターがどのように運賃を計算しているかを押さえておく必要があります。
一般道では「距離」と「時間」の両方で運賃が加算される

タクシーの距離制運賃は、初乗運賃と加算運賃からなり、走行距離に応じて計算されます。さらに、車の速度が一定の速度(限界速度)以下になると、その間の時間を距離に換算して加える「時間距離併用制運賃」が適用されます。
限界速度は、国の運賃制度で時速10kmを超えない範囲と定められています。信号待ちや渋滞で車がほとんど進んでいないのにメーターが上がるのは、この仕組みによるものです。
参考:国土交通省|一般乗用旅客自動車運送事業の運賃及び料金に関する制度について
参考:関東運輸局|一般乗用旅客自動車運送事業の運賃及び料金に関する制度について
高速ボタンを押すと距離だけで運賃が計算される

高速道路に入ると、ドライバーはメーターを「賃走」から「高速」に切り替えます。すると時間による加算が止まり、距離による加算だけになります。高速道路で渋滞に巻き込まれても、時間の経過だけでメーターが上がることはありません。
ただし、お客様の都合で停車して待つ時間は「待料金」の対象になります(SA・PAでの扱いは「3.」で解説します)。
時間加算を止める根拠は各社の「運賃及び料金の適用方法」
高速道路で時間による加算を止める扱いは、各事業者が認可を受ける「運賃及び料金の適用方法」に定められています。公開されている運輸局の資料2つで、時間距離併用制運賃を適用しない区間を比べると、次のとおりです。
| 資料 | 時間距離併用制運賃を適用しない区間 |
|---|---|
| 中国運輸局の手引き(令和6年12月24日改訂) | 迎車回送区間、高速自動車国道又は自動車専用道路の区間 |
| 東北運輸局の申請書様式 | 高速自動車国道を通行する場合、事業者の責による原因で低速になった場合 |
どちらの資料も高速自動車国道を対象外としています。東北運輸局の様式では、事業者側の原因で低速になった場合も時間加算の対象外とされています。
都市高速や無料のバイパスなど、高速自動車国道以外の自動車専用道路で高速ボタンを使うかは、事業者や営業区域によって異なる場合があります。こうした道路をよく走る地域では、所属会社の乗務マニュアルで確認しておきましょう。
参考:中国運輸局|一般乗用旅客自動車運送事業の運賃及び料金の認可申請書作成の手引き
参考:東北運輸局|一般乗用旅客自動車運送事業の運賃及び料金変更認可申請書(福島県)
高速道路の通行料はメーター運賃とは別に乗客が負担する
高速ボタンで止まるのは、時間による加算だけです。通行料はメーター運賃とは別にかかり、乗客の負担になります。
運輸局の資料でも、旅客の要求で有料道路を使った場合の実費は旅客の負担とされています。
乗客からは「運賃に加えて通行料もかかる」と割高に見えやすいため、次の章の損得の考え方を説明できるようにしておくと安心です。
2.高速ボタンで運賃はどう変わる?渋滞時の時間加算を試算

一般道と高速道路での運賃のかかり方を整理すると、以下のとおりです。
| 項目 | 一般道(賃走) | 高速道路(高速) |
|---|---|---|
| 距離による加算 | あり | あり |
| 時間による加算(限界速度以下の走行時) | あり | なし |
| 通行料 | なし | あり(乗客負担・メーター運賃とは別) |
| 深夜早朝割増 | メーター運賃に適用 | メーター運賃に適用(通行料は対象外) |
つまり、渋滞の程度によって、高速道路と一般道のどちらが安くなるかが変わります。東京の運賃で、渋滞中にどのくらい加算されるかを試算してみます。
渋滞で止まっている間にいくら加算される?東京の運賃で試算
関東運輸局が公表している東京都特別区・武三地区の運賃(2026年4月20日改定)では、普通車の上限運賃で時間距離併用制運賃は1分25秒ごとに100円です。これをもとに渋滞中の時間加算を計算すると、次のとおりです。
| ほぼ動かない渋滞の時間 | 時間による加算(一般道) | 時間による加算(高速ボタンを押した場合) |
|---|---|---|
| 10分 | 約700円(7回分) | 0円 |
| 20分 | 約1,400円(14回分) | 0円 |
| 30分 | 約2,100円(21回分) | 0円 |
※時速10km以下の走行が続いた場合の時間加算だけを計算した目安です。距離による加算や深夜早朝割増は含みません。運賃は地域や事業者によって異なります。
一般道で見込まれる渋滞の時間加算が通行料を上回りそうなら、高速道路を使ったほうが総額を抑えやすくなります。反対に、一般道が空いていれば、通行料の分だけ高速道路のほうが割高になります。
参考:関東運輸局|タクシーの運賃改定について(東京都特別区・武三地区)
深夜早朝割増・遠距離割引と高速利用の関係
深夜早朝割増は、原則として午後10時から午前5時までの運送に適用され、割増率は2割です。割増の対象はメーター運賃で、高速道路の通行料は実費のため割増の対象外です。
また、地域によっては、メーター表示額が一定の基準額を超えた部分を割り引く「遠距離割引」があります。高速道路を使う長距離の乗車では基準額を超えやすいため、営業区域の設定を把握しておくと、料金の質問にも落ち着いて答えられます。
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渋滞時は高速道路のほうが総額を抑えられる場合もあります。乗客が高速を嫌がる理由や、ドライバーが高速を提案するときの伝え方は、以下の記事で解説しています。
3.タクシードライバーが押さえたい高速ボタン操作の基本手順

タクシードライバーが高速道路を使うときの流れを、乗車前の確認から一般道に戻るまでの4つの手順で整理します。細かな基準は会社や営業区域、メーターの機種によって異なるため、所属会社の乗務マニュアルもあわせて確認してください。
1. 高速道路に入る前にお客様の了解を得る
高速道路を利用する際は、事前にお客様の了解を得ることが前提です。通行料はお客様の負担になるため、無断で高速道路に入ると料金トラブルの原因になります。
提案するときは、通行料がかかることとおおよその利用区間を伝えておくと、降車時の精算もスムーズです。
2. 高速道路に入るタイミングで高速ボタンを押す
お客様の了解を得たら、高速道路に入るタイミングで高速ボタンを押し、メーターを「高速」に切り替えます。料金所の通過時や自動車専用道路の標識など、どの地点で切り替えるかは会社の運用によって異なる場合があります。
新人のうちは、営業所で基準の地点を確認しておくと迷わずに済みます。
3. SA・PAで停車するときは高速ボタンを解除する
長距離の乗車では、お客様の希望でサービスエリアやパーキングエリアに立ち寄ることがあります。
国の運賃制度や運輸局の申請書様式では、お客様の都合で車両を待機させた場合は「待料金」の対象とされています。高速道路の区間でも、休憩などでお客様を待つ時間は対象になります。
SA・PAに停車するときは、次の流れで操作します。
- SA・PAに入って停車したら、高速ボタンを解除して時間による加算が行われる状態に戻す
- 停車中は、お客様の都合による待機として時間による加算が行われる
- 再び本線に戻る際は、高速ボタンをもう一度押してから発車する

なお、「支払」ボタンは目的地に到着して運賃を確定させるためのボタンです。休憩のために「支払」へ切り替えると、その時点で運賃が確定してしまうため注意してください。
ボタンの名称や停車中の操作ルールは、メーターの機種や会社によって異なる場合があります。
4. 一般道に戻ったら必ず高速ボタンを解除する
高速道路を降りて一般道に合流したら、高速ボタンを解除して賃走に戻します。解除を忘れると、一般道の信号待ちや渋滞でも時間による加算が行われず、本来の運賃を収受できなくなります。
高速を降りた直後は合流や車線変更に気を取られやすいため、「料金所を出たら解除」のように確認のタイミングを決めておくと防ぎやすくなります。
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4.高速ボタンの押し忘れはなぜ問題?法令上の位置づけ

高速ボタンの押し忘れや解除忘れは、お客様に請求する運賃そのものに影響します。法令上の位置づけを確認しておきましょう。
タクシーメーターは計量法の「特定計量器」として検査を受けている
タクシーメーターは、計量法で定められた「特定計量器」の一つです。計量法第16条第3項にもとづき、検定に加えて、車両に取り付けた状態で行う「装置検査」に合格しなければ使用できません。装置検査の有効期間は1年です。
参考:経済産業省|計量行政
参考:神奈川県|検定・装置検査
参考:愛知県|装置検査
参考:群馬県|特定計量器の検定等
認可・届出と異なる運賃を収受することにつながる
タクシーの運賃・料金は、事業者が自由に決められるものではありません。ここに、押し忘れが問題になる理由があります。
メーターに表示された金額がそのまま運賃になる
タクシー運賃は、道路運送法第9条の3にもとづき、国土交通大臣の認可を受けて決められます。特定地域・準特定地域では、国が定めた幅(公定幅)の中で運賃を決めて届け出る仕組みです。1章で紹介した「運賃及び料金の適用方法」も、この認可の対象です。
さらに標準運送約款では、運賃はメーターの表示額によると定められています(時間貸しの契約を除く)。そのため、高速ボタンを押し忘れて時間加算が続くと、本来とは異なる運賃をそのまま請求することになります。
故意に多く収受すると処分の対象になり得る
故意に高速ボタンを押さずに運賃を多く受け取る行為は、法令違反として行政処分や社内処分の対象になり得ます。
過去には、認可運賃によらない運賃を収受していたとして、九州運輸局が事業用自動車の使用停止処分を行った例(2007年)があります。処分の内容は事案によって異なります。
参考:国土交通省|一般乗用旅客自動車運送事業標準運送約款
参考:国土交通省|タクシーの運賃制度について
参考:九州運輸局|一般乗用旅客自動車運送事業者に対する事業用自動車の使用停止処分について
押し忘れ・解除忘れに気づいたときの対応
押し忘れに気づいたら、安全を確保したうえで直ちに高速ボタンを押し、お客様に操作が遅れたことを伝えて謝罪します。過失による押し忘れが直ちに処分の対象になるとは限りませんが、精算時の金額は自己判断で調整せず、会社の規定に沿って対応しましょう。
対応の流れは次のとおりです。
- 気づいた時点で安全を確保し、すぐに高速ボタンを操作する
- お客様に操作が遅れたことを伝え、謝罪する
- 精算時の対応は会社の規定に従う
- 乗務後に営業所へ報告し、記録を残す
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ミスを正直に申告し、会社の規定に沿って対応する姿勢は、事故やトラブルの際にも大切です。タクシー事故の自腹負担や労災の扱いは、以下の記事で解説しています。
5.帰りの高速代とETC精算の実務知識

長距離の乗車では、お客様を降ろした後の帰り道や、通行料の精算方法も理解しておく必要があります。
帰りの高速代は原則としてお客様に請求しない
お客様が負担するのは、乗車している区間の通行料です。お客様を降ろした後、営業所や営業区域へ戻る際の高速代は、原則としてお客様に請求しません。
ただし東京では、往路が事業区域から概ね50km以上の場合、往路の高速料金に相当する額を復路分として請求できるとする東京陸運局長通達があります。このように、地域によって例外が定められていることがあります。
お客様に請求しない帰路の高速代を誰が負担するかは、タクシー会社によって異なる場合があります。主な扱いは次のとおりです。
帰路の高速代を誰が負担するか
- 全額を会社が負担する
- 全額をドライバーが自己負担する
- 営業区域に入るまでは会社が負担する
帰路の扱いは手取りにも関わるため、入社前や長距離の乗務前に所属会社のルールを確認しておきましょう。
ETCで精算する際は運賃と通行料を分けて伝える
現在は多くのタクシーにETC車載器が搭載されています。通行料はETCで支払い、降車時にメーター運賃とあわせてお客様から受け取るのが一般的です。精算の際は、運賃と通行料を分けて伝えると、お客様が金額に納得しやすくなります。
領収書を発行する場合も、運賃と通行料の内訳がわかるようにしておくと、法人利用や経費精算のお客様への配慮になります。
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タクシー会社の制度は、帰路の高速代の扱い以外にも会社ごとに違いがあります。タクシー会社の比較やGO導入による年収の変化は、以下の記事で解説しています。
■帰路の高速代の扱いなど、会社ごとの制度を比較したい方へ
帰路の高速代の負担方法や研修制度など、会社ごとに異なる条件を比較したい方は、当社の転職支援担当者に無料で相談できます。希望条件に合う求人をご紹介します。
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6.タクシーの高速ボタンに関するよくある質問

-
高速ボタンを押すとタクシー代が割引されるのですか?
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高速ボタンは割引のための機能ではありません。高速道路を走る間の時間による加算を止め、距離だけで運賃を計算する機能です。渋滞時に結果として総額が抑えられることはありますが、運賃が割り引かれるわけではありません。
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高速ボタンが押されているかどうかは乗客からも確認できますか?
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多くのタクシーでは、高速に切り替えるとメーターや車両前方の表示に「高速」と表示されます。表示の位置や方法は車両やメーターの機種によって異なるため、気になる場合はドライバーに確認するとよいでしょう。
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高速道路を走行中にメーターが「高速」になっていないことに気づいたら、どうすればいいですか?
-
気づいた時点で、ドライバーに「高速に切り替わっていますか」と確認して問題ありません。降車時の金額に疑問が残る場合は、領収書を受け取り、後日タクシー会社に問い合わせるとスムーズです。
7.タクシーの高速ボタンは時間加算を止める機能|お客様の了解と確実な解除が基本
タクシーの高速ボタンは、高速道路を走る間の時間による加算を止め、距離だけで運賃を計算する機能です。渋滞時は一般道より総額を抑えられる場合がありますが、通行料はメーター運賃とは別に乗客が負担します。
ドライバーは、お客様の了解を得てから高速道路に入り、SA・PAでの停車時と一般道への合流時に確実に解除することが基本です。押し忘れに気づいたら正直に伝え、会社の規定に沿って対応しましょう。帰りの高速代など会社ごとに異なるルールも、事前に確認しておくと安心です。
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