「自動車整備士の年収は低い」という話をよく耳にしますが、実際のところはどうなのでしょうか。
確かに平均年収400万円前後と全職種平均より低めですが、過去5年で13万円上昇しており改善傾向にあります。業界の人手不足や技術革新により、今後さらなる年収アップが期待できる状況です。
本記事では、整備士の年収の実態と効果的な収入向上戦略を詳しく解説します。
- 自動車整備士の平均年収の実態と他業種との比較データ
- 年収が低いとされる3つの構造的理由と業界の現状
- 年収を大幅にアップさせるための具体的な5つの戦略
1.自動車整備士の年収は本当に低いのか?データで検証
自動車整備士の年収について客観的なデータを基に詳しく検証していきます。一般的に低いとされる整備士の年収ですが、果たして実態はどうなのでしょうか。
最新の平均年収データ(2024年版)

日本自動車整備振興会連合会の「令和4年度版 自動車整備白書」によると、全国の自動車整備士の平均年収は404.4万円となっています。
平均年齢は46.7歳で、月収に換算すると約27.9万円です。この数字を見ると確かに高いとは言えませんが、過去5年間の推移を見ると興味深い変化が起きています。
2018年度の平均年収は391万円でしたが、2022年度には404万円と、5年間で約13万円も上昇しているのです。月収換算では1万円以上の増加となっており、確実に改善傾向にあることがわかります。
特にディーラーで働く整備士の年収上昇は顕著で、2018年度の466万円から2022年度には481万円と、15万円の大幅アップを記録しています。

これらのデータから、整備士の年収は着実に改善されていることが明らかです。
▼自動車整備士の年収について詳しく
自動車整備士の平均年収426万円!?以下の記事では、最新データと年収アップ方法を徹底解説。ディーラー転職で100万円増も可能?ぜひ参考にしてください。
他業種との年収比較
国税庁の「令和4年分 民間給与実態統計調査」によると、全職種の平均年収は約458万円です。自動車整備士の404万円と比較すると、確かに約54万円の差があり、平均を下回っているのが現実です。
しかし、この数字には注意が必要です。全職種平均には営業職や管理職、IT関連職など高収入の職種も含まれており、技能職の中では整備士の年収は決して最下位ではありません。
建設業の現場作業員や介護職員と比較すると、むしろ上位に位置しています。
また、整備士の平均年齢46.7歳という点も考慮すべきです。経験を積んだベテラン層が平均を押し上げており、若手整備士の実際の年収はこれより低くなる傾向があります。

ただし、これは他の職種でも同様の傾向があり、整備士特有の問題ではないことも理解しておく必要があります。
年齢別・経験別の年収推移

年齢別の年収推移を見ると、整備士のキャリアパスが明確に見えてきます。
20代前半では年収250-300万円からスタートし、新卒や見習い期間の整備士は月収20万円前後となっています。
20代後半になると年収320-380万円程度となり、2級自動車整備士資格を取得し、一人前の整備士として認められる時期です。月収は26-31万円程度となります。
30代前半では年収380-450万円となり、整備主任者などの役職に就き、後輩指導も担当するようになります。月収は31-37万円程度です。
30代後半から40代では年収450-550万円となり、自動車検査員資格を取得したり、工場長クラスに昇進する時期で、月収は37-45万円程度となります。
50代以上では年収500-600万円となり、豊富な経験を活かし、技術指導や管理業務を担当します。

このデータから、整備士も他の職種同様、経験とスキルアップによって着実に年収が上がることがわかります。
2.自動車整備士の年収が低い3つの理由

なぜ自動車整備士の年収は他業種と比べて低めなのでしょうか。ここでは業界特有の構造的な問題を3つの観点から詳しく解説します。
車検・点検業務の利益率の低さ
自動車整備工場の主要な収入源である車検・点検業務は、実は利益率が非常に低いのが現実です。
お客様に車検代として10万円を請求した場合、その内訳を詳しく見てみると構造的な問題が浮き彫りになります。
約半分の5万円は重量税や自賠責保険料といった法定費用となり、これらは国に納める費用のため整備工場の利益にはなりません。
残りの5万円から部品代、光熱費、設備の減価償却費、そして人件費を差し引くと、整備工場の純利益は1割にも満たない数千円程度になってしまいます。
このような薄利多売の構造では、従業員の給与を大幅に上げることは困難です。特に民間の整備工場では、車検・点検がメイン業務となるため、この構造的な問題が年収の伸び悩みに直結しています。

一方、カーディーラーでは利益率の高い新車・中古車販売で得た利益を整備部門に回すことができるため、民間工場より高い給与を支払うことが可能になっています。
設備投資と維持費の負担
自動車整備には専門的な設備や工具が必要不可欠で、これらの投資負担が人件費を圧迫しています。
リフト、診断機器、各種測定器具など、初期投資だけでも数千万円規模の費用がかかります。さらに、これらの設備は定期的なメンテナンスや校正が必要で、継続的な維持費も発生します。
近年の自動車技術の進歩により、必要な設備はより高度で高額になっています。
電気自動車やハイブリッド車に対応するための特殊な診断機器や安全装備、エンジン制御システムの解析ツールなど、新技術に対応するたびに追加投資が必要になります。
最新のスキャンツール一台で100万円以上することも珍しくありません。小規模な整備工場にとって、これらの設備投資は大きな負担となり、その分人件費を圧迫する要因となっています。

また、環境規制の強化により、廃油処理設備や排ガス対策設備への投資も必要で、これらのコストも経営を圧迫しています。
業界全体の競争激化
自動車整備業界は価格競争が激化しており、これも年収が上がりにくい要因の一つです。カー用品店やガソリンスタンド、さらには量販店系の整備チェーンなど、多様な事業者が整備市場に参入しています。
特に車検市場では格安車検チェーンが台頭し、価格競争が激しくなっています。従来の整備工場も価格を下げざるを得ない状況となり、利益率がさらに悪化しています。
また、自動車の品質向上により故障頻度が減少し、従来の修理需要も減少傾向にあります。定期的なメンテナンス意識の高まりは良いことですが、突発的な修理による高利益案件が減っているのも事実です。
さらに、若者の車離れや自動車保有台数の減少により、市場全体のパイが縮小していることも競争激化に拍車をかけています。
限られた市場を多くの事業者で奪い合う構造となっており、個々の整備工場の収益確保が困難になっています。

ただし、この状況は徐々に変化しており、技術力の高い整備工場や特殊車両に特化した工場は差別化に成功し、高い収益を上げているケースも増えています。
3.勤務先による年収格差の実態
同じ自動車整備士でも、勤務先によって年収に大きな差があります。どこで働くかが収入に与える影響を詳しく見ていきましょう。
ディーラー vs 民間整備工場の年収差

同じ自動車整備士でも、勤務先によって年収に大きな差があります。最も顕著なのがディーラーと民間整備工場の格差です。
ディーラー整備士の平均年収は約490万円となっており、トヨタ系では480-520万円、ホンダ系では470-510万円、日産系では460-500万円、マツダ系では450-490万円、輸入車ディーラーでは500-600万円となっています。
一方、民間整備工場の平均年収は約380万円で、大型工場では400-450万円、中小工場では350-400万円、小規模工場では300-380万円となっています。
この約100万円の差が生まれる理由は、経営基盤の違いにあります。
ディーラーは新車・中古車販売、保険販売、ローン手数料など多角的な収益源を持っており、整備部門が赤字でも他部門でカバーできる体制があります。
また、ディーラーではメーカー独自の資格制度があり、取得すると手当が支給されます。

さらに、ディーラーは福利厚生も充実しており、家族手当、住宅手当、退職金制度なども整備されているため、実質的な年収差はさらに大きくなります。
▼ディーラーの年収ランキング
以下の記事では、自動車整備士の大手企業年収ランキングを紹介!トヨタ・ホンダ・日産など8社の給料・待遇を徹底比較。転職成功のポイントも解説しています。ぜひ参考にしてください。
企業規模別の年収比較

企業規模による年収格差も無視できません。厚生労働省の統計によると、規模による明確な差があります。
大企業(従業員1,000人以上)では平均年収542万円となっており、基本給は30-40万円、賞与は年3-4ヶ月分、各種手当は月3-5万円で、代表例は大手ディーラー本社や自動車メーカー直営工場です。
中企業(従業員100-999人)では平均年収445万円で、基本給は25-35万円、賞与は年2-3ヶ月分、各種手当は月1-3万円となっており、地域有力ディーラーや整備チェーン店が該当します。
小企業(従業員10-99人)では平均年収380万円で、基本給は20-30万円、賞与は年1-2ヶ月分、各種手当は月0-2万円となっており、町の整備工場や個人経営工場が代表的です。
零細企業(従業員10人未満)では平均年収320万円で、基本給は18-25万円、賞与は年0-1ヶ月分、各種手当はほとんどなく、家族経営の工場が該当します。

企業規模が大きいほど安定した経営基盤があり、従業員の待遇改善に投資する余力があることがわかります。
地域による年収差

地域による年収格差も整備士選択の重要な要素です。
高年収地域(平均年収450万円以上)には、東京都480万円、神奈川県470万円、愛知県465万円、大阪府460万円、千葉県・埼玉県450万円があります。
これらの地域は自動車メーカーの本社や主要工場があり、ディーラー数も多く競争が激しいため、人材確保のために高い年収を提示する傾向があります。
中間地域(平均年収400-449万円)には静岡県、茨城県、栃木県、群馬県などがあり、自動車関連企業の工場や研究所があり、整備士需要が安定している地域です。
低年収地域(平均年収400万円未満)は地方の県で350-390万円、離島や過疎地域では300-350万円となっています。ただし、地方では物価や住宅費が安いため、実質的な生活水準では都市部との差は縮まります。
また、地方の方が顧客との距離が近く、やりがいを感じやすい環境もあります。

注目すべきは、自動車メーカーの工場がある地域では、地方でも比較的高い年収が期待できることで、これらの地域では関連企業も多く、転職の選択肢も豊富です。
4.自動車整備士が年収をアップさせる5つの戦略

自動車整備士として年収を向上させるための具体的な方法を5つの戦略に分けて詳しく解説します。それぞれの特徴や実現可能性を理解して、あなたに最適な戦略を見つけてください。
資格取得によるスキルアップ
最も確実でリスクの少ない年収アップ方法が資格取得です。整備士関連の資格を取得することで、手当の増額や昇進の機会が得られます。
1級自動車整備士資格は年収アップ効果が年20-40万円あり、2級整備士との手当差は月1-3万円となっています。取得には4年制専門学校卒業または実務経験と講習が必要です。
1級整備士は最高位の国家資格で、高度な故障診断や他の整備士への指導ができます。
大手ディーラーでは1級取得者を積極的に優遇し、将来の幹部候補として育成する傾向があります。整備主任者・自動車検査員の資格は年収アップ効果が年10-30万円あり、責任手当は月5,000-2万円となります。
取得条件は2級整備士と実務経験が必要です。これらの資格は整備工場の運営に必須で、取得者は工場内で重要なポジションに就くことができます。
特に自動車検査員は認定工場には必ず配置が必要で、需要が高い資格です。メーカー独自資格もあり、ディーラーで働く場合、各メーカーの独自資格取得が年収アップの鍵となります。

これらの資格は段階制になっており、上位資格取得により確実に昇給・昇格できる仕組みになっています。
▼自動車整備士の資格について
以下の記事では、自動車整備士資格全14種類の特徴・取得方法・最適な選び方を解説しています。1級・2級・3級・特殊整備士の違いから収入について紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
高待遇企業への転職
現在の年収に不満がある場合、より待遇の良い企業への転職は効果的な戦略です。大手ディーラーへの転職により、年収を100万円以上アップさせることが可能です。
転職成功のポイントは、2級以上の整備士資格取得、3年以上の実務経験、顧客対応スキルの向上、営業的な視点の習得が重要です。
輸入車ディーラーという選択肢もあり、BMW、メルセデス・ベンツ、アウディなどの輸入車ディーラーは、国産車ディーラーより高い年収を提示することが多く、平均年収は500-600万円となっています。
特徴として成果主義の傾向が強く、技術力と営業力の両方が評価されます。
大手企業の整備部門も狙い目で、運送会社、バス会社、官公庁などの大手企業の整備部門では年収レンジが450-550万円となっており、安定した雇用と充実した福利厚生がメリットです。
ヤマト運輸、佐川急便、JR各社、自治体のバス事業部などが代表例です。

転職活動では整備士専門の転職エージェントを活用し、非公開求人の情報収集や面接対策のサポートを受けることが成功の鍵となります。
特殊車両・高級車専門への転職
一般的な乗用車以外の分野に特化することで、高い年収を実現できる可能性があります。
救急車・消防車などの緊急車両分野では平均年収が500-650万円となっており、高度な技術と責任が求められる分、高待遇が期待できます。モリタホールディングス、帝国繊維などの特装車メーカーで求人があります。
重機・建設機械メンテナンス分野では平均年収が450-600万円で、コマツ、日立建機、キャタピラージャパンなどが代表企業です。現場での作業が多く、出張手当なども期待できる特徴があります。
航空機整備分野では平均年収が600-800万円と高く、航空機整備士資格が必要ですが、自動車整備士資格があると取得しやすくなります。JALエンジニアリング、ANAラインメンテナンステクニクスなどが代表企業です。
レーシングカー・スポーツカー専門分野では年収レンジが400-1,000万円と幅広く、技術力により大きく差があります。SUPER GT参戦チームやスーパーカー専門店などが活躍の場で、技術力とスピードが要求される特殊な分野です。

これらの特殊分野は一般的な整備とは異なる専門知識が必要ですが、その分希少価値が高く、高い年収を実現できる可能性があります。
独立開業による収入アップ
最も大きな年収アップが期待できるのが独立開業です。成功すれば年収1,000万円以上も可能ですが、相応のリスクも伴います。
認証工場開業では初期投資が1,000-3,000万円必要で、年収可能性は600-2,000万円となります。必要条件は2級整備士資格、整備主任者配置、設備要件クリアが求められます。
指定工場開業では初期投資が3,000-5,000万円必要ですが、年収可能性は1,000-3,000万円以上となります。自動車検査員配置と厳格な設備・人員要件が必要条件です。
開業成功のポイントは、立地選定(住宅地近くで駐車場確保)、顧客獲得戦略(地域密着、リピーター確保)、差別化サービス(夜間対応、出張サービスなど)、財務管理能力が重要です。
フランチャイズ開業という選択肢もあり、車検のコバック、アップル車検などのフランチャイズ加盟により、開業リスクを軽減しながら独立する方法があります。
加盟金は300-500万円程度で、ブランド力や運営ノウハウの提供がメリットです。年収目安は800-1,500万円となっています。

開業には十分な準備期間と資金計画、そして経営者としての覚悟が必要ですが、成功すれば大幅な年収アップが実現できます。
関連職種への転職・キャリアチェンジ
自動車整備士の経験を活かしながら、より高収入が期待できる関連職種への転職も有効な戦略です。
技術営業(セールスエンジニア)では平均年収が500-700万円で、自動車部品メーカー、工具メーカー、設備メーカーが転職先となります。必要スキルは整備経験とコミュニケーション能力です。
損害保険調査員(アジャスター)では平均年収が450-650万円で、自動車事故の損害調査や保険金査定が業務内容となります。整備士の技術的知識が直接活かせる特徴があります。
自動車メーカーの技術者では平均年収が600-900万円で、整備経験からメーカーの品質管理部門や開発部門への転職ルートがあります。大卒資格(通信制大学卒業でも可)が必要条件となります。
自動車関連の公務員では平均年収が400-600万円で、運輸支局の自動車検査官や警察の鑑識技術職などがあります。安定性や退職金・年金制度の充実がメリットです。
カーコンサルタント・カーライフアドバイザーでは平均年収が400-800万円(成果により大きく変動)で、中古車販売店での査定・販売や保険代理店業務が主な内容です。整備知識を活かした顧客へのアドバイスが武器になります。
自動車整備専門学校の講師では平均年収が400-550万円で、実務経験10年以上と1級整備士資格が推奨されます。土日休みや長期休暇、やりがいの高さがメリットです。
5.技術革新で変わる自動車整備士の年収事情と対策
自動車整備士の年収は確かに全職種平均を下回る400万円前後ですが、これは業界の構造的な問題であり、個人の取り組み次第で大幅な改善が可能です。
過去5年間で13万円の年収上昇を記録し、深刻な人手不足と次世代自動車技術の普及により、今後も上昇傾向が続く見込みです。
資格取得、高待遇企業への転職、特殊分野への挑戦、独立開業、関連職種への転職という5つの戦略により、他業種を上回る年収も十分実現可能です。
重要なのは現状に甘んじることなく、積極的にスキルアップと戦略的なキャリア形成に取り組むことです。
自動車整備士は技術革新の追い風を受けて大きく飛躍する可能性を秘めた職業といえるでしょう。