自動車整備士は、私たちの安全なカーライフを支える、社会にとって不可欠な専門職です。
しかし、「未経験からでもなれるのだろうか」「資格がないと難しいのでは」「給料は安定しているのか」といった不安を感じ、一歩を踏み出せずにいる方も多く見受けられます。
結論から言えば、未経験からでも自動車整備士になれます。
この記事では、未経験者が歓迎されている社会的な背景に加えて、仕事内容、資格取得までのロードマップ、給与や将来性まで、公的なデータや客観的な情報に基づいて解説していきます。
この記事を読み終える頃には、漠然とした不安がなくなり、実現可能なキャリアプランを練れる状態になると考えられます。
- 未経験者でも自動車整備士として歓迎される理由
- 資格取得までの具体的なステップと必要な期間
- 自動車整備士の平均年収と将来性
1.未経験から自動車整備士になるのは本当に可能?

「車が好き」という気持ちさえあれば、未経験からでも整備士を目指す道は広く開かれています。
深刻な人材不足を背景に、多くの企業が教育体制を整備して新人を歓迎しています。本章では、未経験者が挑戦する際の現実的な課題と、確実にステップアップするための戦略を解説します。
結論:未経験でも自動車整備士への道は開かれている
未経験から自動車整備士になることは可能です。
多くの整備工場やディーラーでは、人材不足を背景に、未経験者を積極的に採用し、一から育てる体制を整えています。学歴や職歴を問わず、車が好きで、機械いじりに興味がある方であれば誰にでも門戸は開かれています。
実際に、未経験からスタートし、一人前の整備士として活躍している方は数多く存在します。大切なのは、挑戦したいという意欲と、技術を地道に学んでいく姿勢です。
ただし、無資格でできる作業には限りがある
注意点として、未経験・無資格の段階では、担当できる業務に法律上の制限があることを理解しておく必要があります。
そのため、入社直後はオイル交換やタイヤ交換、洗車、先輩整備士の補助作業といった、専門的な判断を必要としない業務からスタートするのが一般的です。
2.なぜ今、未経験者でも自動車整備士として歓迎されるのか?

未経験者を積極的に採用する背景には、自動車整備業界全体が直面する深刻な人手不足があります。
ここでは、有効求人倍率のデータから業界の需要を客観的に分析し、未経験からの挑戦がキャリアにとって大きなチャンスである理由を、国の政策的な後押しも交えて解説します。
データで見る深刻な人材不足と高い需要
現在、自動車整備業界は深刻な人手不足に直面しています。
自動車整備分野の有効求人倍率は4.99倍(令和5年度)という極めて高い水準にあり、常に「求職者<求人数」の状態が続いています。これは、企業側が一人でも多くの人材を確保したいと考えている証拠です。
少子高齢化による若手人材の減少に加え、技術の高度化・複雑化により、専門知識を持つ整備士の需要はますます高まっています。
この社会的な需要の高さが、未経験者にとって参入の機会となっている要因です。
参考|国土交通省:令和7年度物流・自動車局関係予算概算要求概要
国も後押しする整備士の重要性
自動車の安全性を確保することは、国民の生命を守る上で極めて重要です。
そのため、国も自動車整備士の育成と確保を重要な政策課題と位置づけ、様々な支援策を講じています。
自動車整備士は、単なる「車の修理屋」ではなく、社会の安全インフラを支える重要な役割を担う専門職であると、国からも認められているのです。
このような安定した需要と社会的な重要性が、この仕事の大きな魅力の一つと言えるでしょう。
3.未経験から一人前の整備士になるための具体的な3ステップ
未経験から一人前の整備士になるための
具体的な3ステップ
まずは「認証工場」への就職を目指す
1年以上の実務経験を積んで受験資格を得る
「3級自動車整備士」資格の取得に挑戦する
未経験者がプロの自動車整備士になるためには、資格取得が不可欠です。ここでは、多くの方が歩む王道のキャリアパスを3つのステップでご紹介します。
ステップ1:まずは「認証工場」への就職を目指す
1つ目は、国から認められた「認証工場」または「指定工場」に就職することです。
これらの工場は、地方運輸局長が定める基準(設備、技術、管理組織など)をクリアした事業場であり、ここでの実務経験が、のちの資格試験の受験資格を得るために必須となります。
多くの求人では「未経験者歓迎」と明記されているため、まずはこうした企業を探して応募することから始めましょう。
ステップ2:1年以上の実務経験を積んで受験資格を得る
2つ目のステップは、認証工場で働きながら、整備補助業務を通じて実践的な知識と技術を学ぶことです。
3級自動車整備士の受験資格を得るためには、認証工場または指定工場(民間車検場)で1年以上の実務経験を積むことが、法律上定められています。
日々の業務そのものが、資格取得に向けた効果的な学習の場となります。わからないことは質問し、一つひとつの作業の意味を理解しながら経験を積んでいくことが大切です。
ステップ3:「3級自動車整備士」資格の取得に挑戦する
3つ目は、国家資格に合格することです。受験資格を得たら、いよいよ国家試験に挑戦します。
3級自動車整備士の資格には「シャシ」「ガソリン・エンジン」「ジーゼル・エンジン」「二輪」といった種類があり、自身の業務内容に合わせて選択します。
この資格を取得することで、ブレーキの分解など、これまでできなかった専門的な整備作業が許可されます。まさに、プロの整備士としてのキャリアがスタートする瞬間と言えるでしょう。
4.実技試験が免除になる「技術講習」とは?

自動車整備士の国家試験には、学科試験と実技試験があります。特に実技試験は、未経験者にとってハードルが高いと感じられるかもしれません。
しかし、各都道府県の自動車整備振興会が実施している「技術講習」を受講し、修了試験に合格すれば、国家試験の実技試験が免除される制度があります。
働きながら資格を目指す方の多くがこの制度を活用しており、合格への確実なルートとなっています。
5.気になる給料は?データで見る自動車整備士の年収

自動車整備士の仕事は専門性が高く、技術力が収入に直結します。
この章では、公的なデータに基づき、平均年収や年代別の給与水準を公開。資格取得やキャリアアップによって、年収600万円以上を目指す具体的な道筋を解説します。
年代別の平均年収とキャリアアップ
自動車整備士の平均年収
年代別データ (30代を100%として比較)
20代
約389万円
30代
約495万円
出典: 日本自動車整備振興会連合会(日整連)の調査
日本自動車整備振興会連合会(日整連)の調査によると、自動車整備士の平均年収は約426万円です。
年代別に見ると、20代で約389万円、30代で約495万円と、経験に応じて着実に上昇していきます。
さらに、2級、1級といった上位資格の取得や、役職に就くことで、年収600万円以上を目指すことも十分に可能です。技術力という確かな専門性が、収入に直結する仕事です。
参考|日本自動車整備振興会連合会:令和6年度自動車特定整備業実態調査結果の概要について
働く場所(ディーラーか民間工場か)で年収は変わる
勤務先によって給与水準は大きく異なります。
日整連のデータによると、ディーラー勤務の平均年収が約509万円であるのに対し、民間整備工場の平均年収は約389万円と、100万円以上の差が見られます。
一方、地域に密着した「民間の整備工場」は、会社規模によってはディーラーほどの給与は望めないかもしれませんが、幅広い車種に触れられたり、といった魅力があります。
どちらが自分に合っているかは、キャリアプランと照らし合わせて考えることが重要です。
参考|日本自動車整備振興会連合会:令和6年度自動車特定整備業実態調査結果の概要について
6.自動車整備士の仕事内容

自動車整備士の仕事は、故障修理だけでなく、安全を守るための点検整備や、お客様への技術的な説明など多岐にわたります。
EV/ADASなどの最新技術への対応も求められる、専門性の高い具体的な業務内容を解説します。
具体的な仕事内容は?
自動車整備士の仕事内容
点検整備(メンテナンス)
故障整備(修理)
事故整備(板金・塗装)
顧客対応
自動車整備士の仕事は多岐にわたりますが、大きく分けると以下の4点です。
- 点検整備(メンテナンス)
車検や定期点検など、故障を未然に防ぐためのチェック作業。 - 故障整備(修理)
故障した箇所の原因を特定し、部品交換などを行って正常な状態に戻す作業。 - 事故整備(板金・塗装)
事故で損傷した車体の修理や塗装を行う作業。 - 顧客対応
車の状態についてお客様に分かりやすく説明し、アドバイスを行う接客業務。
3級の先にある2級、1級、そして管理職への道
3級整備士は、あくまでキャリアのスタートラインです。
その先には、より高度な整備が可能になる「2級自動車整備士」、そして整備に関する最高峰の資格である「1級自動車整備士」への道が続いています。
また、現場のスペシャリストとして技術を極めるだけでなく、経験を活かして、工場の運営管理や後輩の指導を行う「工場長」などの管理職を目指すキャリアパスも開かれています。
自身の適性や目標に応じて多様なキャリアを築いていけるのが、この仕事の醍醐味です。
7.安定と専門性を両立する新しいキャリア:自動車整備士という選択
自動車整備士への転職は、深刻な人材不足という社会的な需要増がある「今だからこそ」検討すべき選択肢です。
公的なデータが示す高い需要と安定した給与、そして国が定める明確な資格取得ルートが存在するため、未経験からでも着実に専門性を身につけ、社会に必要とされるプロフェッショナルを目指せます。
本記事でご紹介したステップは、新しいキャリアを検討する上での判断材料となるはずです。