「自動車整備士はやめとけ」という声をSNSや転職サイトで目にしたことはありませんか?車好きな人にとって憧れの職業である自動車整備士ですが、実際に働いている人からは厳しい現実を訴える声が多く聞こえてきます。
本記事では、自動車整備士業界のリアルな実態を徹底検証し、転職や進路選択の参考となる情報をお届けします。
- 自動車整備士はやめとけと言われる具体的な理由と業界の構造的問題
- 年収や労働環境の実態、ディーラーと整備工場の待遇格差の詳細
- 整備士に向いている人・向いていない人の特徴と成功するための戦略
1.自動車整備士「やめとけ」の声が多い理由

自動車整備士に対する否定的な意見が多い背景には、業界特有の構造的な問題があります。ここでは最も頻繁に指摘される理由を詳しく見ていきましょう。
給与水準の低さ
自動車整備士の平均年収は約426万円で、国家資格を持つ専門職としては低水準です。新卒初任給は専門学校卒18万円、大卒20万円程度と他の技術職より低く、高い技術力と責任に見合わない給与が転職の主な要因となっています。
ディーラーの方が整備工場より待遇が良いとされますが、会社規模や地域、資格、配属部署により差があります。
参考:一般社団法人 日本自動車整備振興会連合会|令和 6年度 自動車特定整備業実態調査結果の概要について/株式会社リクルート|スタディサプリ進路|自動車整備士の気になる?年収・給料・収入
過酷な労働環境と長時間労働の実態
自動車整備士の労働環境は肉体的・精神的負担が大きく、夏は40度超の工場内、冬は暖房のない屋外での作業が常態化しています。 重い部品運搬や不自然な姿勢による長時間作業で腰痛や関節痛に悩む整備士が多いです。
これらの職業病により、年齢を重ねても現場で働き続けることが困難になり、キャリアの継続性に大きな問題を抱えています。
人間関係のストレスと古い体質
自動車整備業界は体育会系の文化が残っており、「見て覚える」といった従来の指導方法が続いています。特に町工場では新人への指導が十分でなかったり、厳しい指導が行われたりすることがあり、職場の人間関係に悩んで退職を選ぶ若手が増えています。
また、女性整備士への配慮が不足している職場も見られ、性別による不平等な扱いを受けるケースもあります。このような職場環境が改善されなければ、人材の流出は継続すると考えられます。
土日祝日が休めない勤務体系
カーディーラーの整備士は土日祝日が最も忙しく、一般的な会社員とは逆の勤務体系で働きます。家族や友人との時間を重視する人にとってストレスとなり、特に小さな子どもがいる家庭では学校行事や家族イベントに参加できず家庭生活に支障が生じます。
シフト制でも土日祝日の出勤は避けられず、ワークライフバランスの確保が困難なため、規則的な勤務時間の職種への転職を希望する整備士が増えています。
将来性への不安と昇進の限界
自動車整備士は長期間働いても管理職への昇進機会が限られており、特に小規模工場では社長や工場長以外にポストがないため、技術向上しても給与や地位の改善が期待できません。
電気自動車や自動運転技術の発達で従来技術の陳腐化への不安もあり、40代以降の肉体労働継続や転職市場での低評価を懸念して早期転職を検討する整備士が多く、明確なキャリアパスの欠如が業界の大きな問題となっています。
2.自動車整備士のリアルな現状

国家資格を持つ専門職でありながら、自動車整備士は厳しい労働環境と低賃金に直面しています。現場で働く整備士たちの実情を詳しく見てみましょう。
ディーラー整備士との環境格差
大手カーディーラーと一般的な整備工場では労働環境に差があります。大手ディーラーでは冷暖房完備の作業場や最新診断機器、充実した福利厚生が整備されていますが、町工場では古い設備で厳しい環境での作業が多いのが現実です。
給与面でもディーラー整備士の平均年収は約510万円、工場では約389万円と差があります。ただし、ディーラーでは営業ノルマや接客業務が加わるため、純粋に整備技術を磨きたい人には向かない場合もあります。
参考:一般社団法人 日本自動車整備振興会連合会|令和 6年度 自動車特定整備業実態調査結果の概要について
肉体的負担と健康リスクの深刻さ
自動車整備士の仕事は想像以上に肉体への負担が大きく、多くの整備士が慢性的な体調不良に悩まされている場合があります。重量物を日常的に扱うため腰痛などを患う人が多く、車体下での作業や狭いエンジンルーム内での長時間作業により首や肩、膝に慢性的な痛みを抱えるケースも少なくありません。
化学物質による手荒れやアレルギー症状もあり、これらの健康リスクは年齢とともに深刻化するため、適切な安全対策と健康管理が不可欠です。
技術進歩についていけない世代格差
自動車技術の急速な進歩により、従来の機械的知識だけでは対応できない案件が増加しています。ハイブリッド車や電気自動車の普及で高電圧システムや電子制御技術の理解が必要ですが、中高年整備士は新技術への適応に課題があります。
一方、若手は新技術対応力は高いものの基礎的な機械知識や経験が不足しており、この世代間格差が職場内のコミュニケーション不全や技術継承問題を深刻化させ、継続的な教育研修システムの構築が急務となっています。
3.「自動車整備士はやめとけ」は本当に正しい?反対意見も検証

否定的な意見が目立つ一方で、自動車整備士という職業には多くのメリットも存在します。ここでは反対意見も含めてみていきましょう。
改善されつつある待遇と年収事情
近年、自動車整備士の人手不足が深刻化していることを受け、待遇改善に取り組む企業が増加しています。
業態別の年収の推移

年収については、ディーラーが最も高い年収水準を維持しており、令和元年の461万円から令和6年の510万円へと49万円上昇しています。兼業は32万円増、専用は25万円増となっています。
また、専門実践教育訓練給付では、最大70%(年間上限56万円)まで給付される制度もあります。
参考:一般社団法人 日本自動車整備振興会連合会|令和 6年度 自動車特定整備業実態調査結果の概要について
国家資格としての価値と安定性
自動車整備士は国家資格で、一度取得すれば全国どこでも通用する技術と知識を証明できます。自動車は現代社会に不可欠で適切なメンテナンスが必要なため、整備士の需要がなくなることは考えられません。
資格取得により昇格や昇給の機会があり、転職市場でも高く評価され、異業種転職時にも技術力や責任感の証明として活用できます。電気自動車時代でも基本的な整備技術は必要で、新技術に対応できれば長期的な安定性を確保できる職業です。
車好きには替えられないやりがい
多くの自動車整備士が最初にこの職業を選んだ理由は「車が好きだから」です。最新の自動車技術に触れ、様々なメーカーや車種の構造を深く理解できることは車愛好家にとって大きな魅力です。
故障で困っているお客様の問題を解決し感謝されることや、複雑な故障原因を突き止めて難易度の高い修理を成功させた時の達成感は、この仕事ならではのやりがいです。技術力向上の実感や常に新しい知識を学び続けられることも魅力となっています。
転職時のスキル活用と経験の価値
自動車整備士として培った技術や経験は転職時に高く評価されます。機械に対する深い理解力、問題解決能力、手先の器用さ、責任感などは多くの業界で求められるスキルです。
自動車整備士を活かせる転職先
製造業 品質管理や設備保全
運送業 車両管理
損害保険会社 事故査定
上記のように、経験を活かせる転職先は多く存在します。独立して整備工場を開業したり中古車販売業を始めたりなど、起業時の技術的基盤として整備士の経験は非常に価値があります。
4.自動車整備士に向いている人・向いていない人

自動車整備士として成功するかどうかは、個人の性格や適性に大きく左右されます。この職業に向いている人の特徴と避けるべき人の特徴を詳しく見てみましょう。
避けるべき人の特徴
自動車整備士として働くことを絶対に避けるべき人で、下記のような特徴があります。
向いていない人
- 土日祝日の勤務に強い拒否感がある人
- 肉体労働への耐性がない人
- 汚れることを極度に嫌う人
- 細かい作業が苦手な人
- 責任感が希薄な人
カーディーラーでは土日祝日が最繁忙期となるため、土日祝日に勤務することに抵抗がある人が避けた方がいいでしょう。
また、肉重労働でオイルや汚れにまみれることが日常的にあり、人命に関わる重要な仕事です。そのため、清潔な環境での作業を望む人や、デスクワーク中心の職種を希望する人には適していません。さらに、プレッシャーに弱い人や集中力が続かない人も、安全性を重視するこの業界では厳しいでしょう。
成功しやすい人の共通点
向いている人
- 車への愛情と興味がある人
- 手先が器用な人
- 空間認知能力がある人
- コミュニケーション能力がある人
- 問題解決力がある人
自動車整備士として成功している人に共通する特徴は、まず車への純粋な愛情と興味です。車の構造や動作原理に心から興味を持ち、新しい技術を学ぶことに喜びを感じる人は困難な状況でもモチベーションを維持できます。
狭いスペースでの精密作業や複雑な機械構造の理解に優れている人は技術習得が早い傾向があります。また、お客様への説明や難しい故障原因の特定において、コミュニケーション能力や問題解決力があると優れた成果を上げます。
志望者が事前に確認すべきポイント
自動車整備士を目指す人が事前に確認すべき重要なポイントがいくつかあります。まず実際の職場見学を必ず行い、作業環境や雰囲気を直接体験することが重要です。
インターンシップやアルバイトで短期間働いてみることで理想と現実のギャップを事前に把握できます。給与体系と昇進制度について詳細に確認し、将来的な収入の見通しを立てることも必要です。
5.自動車整備士の成功戦略

自動車整備士として働き続けることを選択する場合、より良い労働環境と待遇を得るための戦略が存在します。
優良企業の見分け方と転職のコツ
自動車整備士の転職では、求人情報の表面的な内容だけでなく実際の労働環境を詳しく調査することが重要です。
優良企業の特徴
- 明確な給与体系と昇進制度
- 充実した福利厚生
- 適切な労働時間管理
- 継続的な教育研修制度 など
面接時には残業時間の実態、有給取得率、離職率、キャリアパスについて具体的に質問し、可能であれば職場見学を申し出て作業環境や従業員の雰囲気を直接確認することが効果的です。
スキルアップで年収を上げる方法
自動車整備士として年収向上には継続的なスキルアップが不可欠です。2級整備士、1級整備士の上位資格取得により基本給向上や手当支給が期待でき、ハイブリッド車や電気自動車の電気自動車などの整備に係る特別教育特別教育受講で市場価値を高められます。
自動車検査員の資格取得で車検業務を担当し重要なポジションへ昇進可能です。
自動車整備士と自動車検査員の違い
自動車整備士 車の点検・修理・整備を行う技術者
自動車検査員 車検ラインでの最終的な合格・不合格の判定権限を持つ
マネジメントスキルやコミュニケーション能力を磨けば管理職への道も開け、専門分野でのエキスパートを目指すことも効果的です。
異業種転職のタイミングと準備
自動車整備士から異業種への転職成功には、適切なタイミングと十分な準備が重要です。20代後半から30代前半が最適なタイミングとされており、経験を積みながらも新環境に適応しやすい年齢です。
転職準備では自分のスキルや経験を棚卸しし、機械的知識、問題解決能力、手先の器用さ、責任感など他業界でも活用できる能力を明確にします。転職活動ではこれらのスキルを具体的にアピールし、希望業界の基礎知識習得や関連資格取得も検討しましょう。
6.自分の価値観と将来像に合わせた選択を
自動車整備士は確かに厳しい労働環境や低賃金といった問題を抱えていますが、車への愛情がある人にとっては替えがたいやりがいのある職業でもあります。
重要なのは業界の現実を正しく理解し、自分の適性や価値観、将来の目標と照らし合わせて判断することです。転職を検討する場合も、スキルアップによる待遇改善や異業種への転職など複数の選択肢を検討し、後悔のない決断を下しましょう。