運送会社にとって事故は経営の存続を脅かす重大なリスクです。事故を起こすと行政処分や高額な損害賠償、刑事責任を問われる可能性があります。
しかし、適切な安全管理体制を構築し、予防策を講じることでペナルティを回避できます。
本記事では事故のリスクと効果的な対策を解説します。
- 運送事故によるペナルティの種類と法的責任について
- 事故が会社経営に与える直接的・間接的な影響について
- 効果的な事故防止策と安全管理体制の構築方法について
1.事故を起こした際の行政処分と法的責任

運送会社が事故を起こすと国土交通省の監査を受けます。行政処分だけでなく民事・刑事責任も問われる可能性があります。
運輸局による監査と行政処分の強化
事故を起こした運送会社は、地方運輸局から監査を受ける可能性が極めて高く、運行管理体制や安全教育の実施状況、車両整備の適切性などが厳格にチェックされます。法令違反や安全管理体制の不備が発見されれば、厳しい行政処分が下されることになります。
2024年10月からの酒気帯び運転処分の大幅強化
特に重要な変更として、2024年10月1日より酒気帯び運転に関する行政処分基準が大幅に強化されています。
新たに「指導監督義務違反」と「点呼の実施違反」が設けられ、飲酒運転防止の指導未実施や点呼未実施の場合、初違反でも100日車、再違反では200日車の処分が科されるようになりました。
従来の処分制度では、違反点数が3年間累積され、30日以内の事業停止や車両使用停止などの重いペナルティが科されます。長期の事業停止を命じられれば、運送会社の経営に深刻なダメージをもたらすことは必至です。
▼酒気帯び運転の免停期間について
以下の記事では、酒気帯び運転の初犯でも科される免許停止期間や罰金などの罰則を詳しく解説しています。初犯者講習で免許停止を短縮する方法も紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
民事上の損害賠償責任
事故の被害者から民事上の損害賠償請求のリスクも深刻です。対人事故の場合、被害者の治療費や休業損害、後遺障害による逸失利益、慰謝料などの支払いを求められます。死亡事故ともなれば、賠償額は数千万円単位に上ることも珍しくありません。
対物事故においても、相手方車両の修理費用や代車費用、積荷破損の補償が必要になります。任意保険の補償限度額を超える高額賠償のリスクがあるため、示談交渉は弁護士など専門家のアドバイスを受けて慎重に進めることが重要です。
刑事責任の追及
交通事故が悪質な法令違反に起因する場合、刑事責任を問われる可能性があります。運転者の酒気帯び運転により死亡事故を起こせば、危険運転致死罪に問われ、執行猶予のない懲役刑に処せられることになります。
運送会社の管理者が安全運行のための管理責任を果たしていない場合、道路運送法違反により、最高3年以下の懲役または300万円以下の罰金が科されるおそれがあります。また、働き方改革関連法による時間外労働上限規制に違反した場合は、労働基準法第119条により6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。
なお、令和7年(2025年)6月1日より、懲役刑・禁錮刑は「拘禁刑」に統合される予定です。
2024年10月からの酒気帯び運転処分強化により、運送業界における法令遵守の重要性は一層高まっています。事故の背景に組織的な法令軽視がある場合、事故当事者だけでなく経営幹部も刑事責任を問われる危険性があります。運送事業者は、これらの最新動向を踏まえ、安全管理体制の構築と法令遵守の徹底が急務となっています。
参考:国土交通省|行政処分の基準
参考:e-Gov法令検索|労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)
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2.運送会社にとって事故がもたらす影響

運送事故は修理費用などの直接損失だけでなく、企業の信用失墜をも招き、取引先との契約打ち切りや新規顧客獲得への悪影響も深刻な問題となっています。特に2024年問題による運送業界の構造変化の中で、事故リスクの重要性はさらに高まっています。
事故がもたらす直接的・間接的な損失
事故による直接的な損失としては、まず、車両の修理費用が挙げられます。大型トラックの修理には高額な費用がかかることが少なくありません。
加えて、事故を起こしたドライバーの治療費や荷物の破損・紛失に対する補償費用も発生します。重大事故の場合、被害者が亡くなったケースでは億単位の損害賠償が必要になることもあります。
しかし、事故による損失は直接的なコストだけではありません。事故を起こした運送会社は、荷主や取引先からの信頼を失うリスクがあります。安全運転を最優先にするべき運送会社が事故を起こせば、契約打ち切りや取引停止を宣告される可能性があります。さらに、事故のニュースが広まれば、会社の評判は地に落ち、新規顧客の獲得にも悪影響をもたらします。
2024年問題下での事故リスクの深刻化
2024年4月からの働き方改革関連法施行により、運送業界は大きな転換点を迎えています。トラックドライバーの時間外労働時間が年960時間に制限されることで、運送会社は運賃値上げを余儀なくされています。国の試算によると、対策を講じない場合、2024年度に輸送能力が14%、2030年度には34%も不足する可能性があります。
このような厳しい経営環境の中で事故が発生した場合、その影響はより深刻になります。既に運賃値上げを受け入れている荷主企業も、事故を起こした運送会社との取引継続には慎重になるでしょう。競合他社への乗り換えがより容易になっている現在の市場環境では、一度の事故が致命的な取引先離れを招く可能性があります。
会社の信用失墜と取引先への影響
運送業界は、安全・安心・確実をモットーとする業界です。その基本理念に反する事故は、会社の信頼を根底から揺るがします。特に人身事故や重大な物損事故を起こした場合、マスコミによる報道で会社名が世間に広まり、悪いイメージが定着してしまうおそれがあります。
一度失墜した信用を回復するには、長い時間と努力が必要です。その間、取引先から契約を打ち切られたり、新規顧客から敬遠されたりすれば、売上は減少の一途をたどります。場合によっては倒産のリスクすらあるのです。
事故がもたらすリスクの大きさを考えれば、運送会社経営者が事故防止を経営上の最重要課題と位置づけるのは当然といえるでしょう。
特に2024年問題による業界構造の変化により、事故の影響はより甚大になっています。安全運転の徹底は、単なるスローガンではなく、会社の命運を左右する重要な経営戦略なのです。
参考:弁護士法人デイライト法律事務所|トラックドライバーの交通事故における使用者責任と損害賠償
▼免停になるといつから運転できない?
免停になるといつから運転できなくなるのか?以下の記事では、運転禁止の開始時期や、免停の基本などを詳しく解説しています。ぜひ参考にしてください。
3.安全管理体制の構築の必要性

事故防止には組織的な安全管理体制が不可欠です。運輸安全マネジメント制度の実践とドライバー教育が重要な柱となります。
運輸安全マネジメント制度の理解と実践
国土交通省が2006年から導入した「運輸安全マネジメント制度」は、運送事業者に安全管理体制の構築と継続的改善を求める制度です。
この制度の核心は、経営トップのリーダーシップの下でPDCAサイクルを回すことにあります。経営者が安全方針と目標を設定し、必要な体制・手順を定めて教育・訓練を実施します。そして取り組み状況を点検・評価し、改善措置を講じるプロセスを繰り返すことで、継続的な安全性向上を図ります。
運送会社の経営者は、この制度の理念を深く理解し、自社の実情に合わせて実践する必要があります。安全は経営者の強いコミットメントなくしては達成できません。
参考:国土交通省|運輸安全マネジメント制度とは?
ドライバー教育と社内コミュニケーション
安全運転の要は、なんといってもドライバーです。運転技術はもちろん、安全意識の高さが何より求められます。そのため、ドライバー教育は安全管理体制の中でも特に重要な要素といえるでしょう。
ドライバー教育の指導項目は国土交通省で定められており、ドライバー教育の際はその指導項目(法定12項目)に沿って指導することが義務づけられています 。令和6年4月1日に国土交通省の安全教育マニュアル「自動車運送事業者が事業用自動車の運転者に対して行う一般的な指導及び監督の実施マニュアル」が改訂され、2024年4月から適用となった自動車運転者の労働時間等の改善基準を踏まえた内容に改正されました 。
ドライバー教育では、運転技術を教えるだけでなく、安全運転の心構えや危険予知の方法なども徹底的に指導する必要があります。加えて、省エネ運転やエコドライブの実践方法を教えることも大切です。環境に配慮した運転は、安全運転にもつながるからです。
また、ドライバー同士のコミュニケーションを活発にすることも重要です。職場の仲間と情報を共有し、互いに注意し合える雰囲気があれば、ヒヤリハットの共有や危険個所の把握がスムーズに進みます。ドライバー一人一人が高い安全意識を持ち、チームとして助け合える環境づくりが理想です。
参考:国土交通省|事業用自動車の安全対策
車両管理と先進安全技術の導入
安全運転には、車両の安全性も欠かせません。日常点検を確実に実施し、故障や不具合を見逃さないことが重要です。また、法定点検はもちろん、計画的な整備を行い、車両を常にベストコンディションに保つ努力が必要不可欠です。
加えて、老朽化した車両の更新も計画的に進めるべきでしょう。高い安全性能を誇る最新車両への代替は、事故防止に直結する投資といえます。
さらに、衝突被害軽減ブレーキ、車線逸脱警報装置、ドライバー異常時対応システムなど、先進安全技術の導入も検討に値します。ITの力を活用して車両の安全性を高めることは、事故防止に大きく貢献するはずです。
安全な輸送を実現するには、人・物・情報のすべてを一体的にマネジメントし、組織的・継続的に取り組んでいく必要があります。ハード・ソフト両面からのアプローチを通じて、安全性を高めていく努力を怠ってはならないのです。
参考:国土交通省|事業用自動車の安全対策:自動車総合安全情報
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4.万が一の運送事故発生時の対応策

万が一の事故発生時には迅速で適切な対応が求められます。緊急時マニュアルの整備と関係機関への連絡体制を事前に構築することで、混乱を最小限に抑え、被害拡大を防ぐことができます。
緊急時対応マニュアルの整備と周知徹底
事故発生時の混乱を最小限に抑え、迅速な対応を可能にするには、緊急時対応マニュアルの整備が不可欠です。マニュアルには、事故発生時の社内報告ルート、関係機関(警察、消防、保険会社等)への連絡方法、現場での対応手順などを明文化しておく必要があります。
特に、運転者が事故現場で取るべき行動は明確に定めておかねばなりません。負傷者の救護を最優先とし、その後の警察(110番)への通報、事故車両の移動、保険会社への連絡など、優先順位をつけて具体的に記載します。また、車両に搭載する非常用具の使用方法、事故状況の記録方法なども指示しておくことが望ましいでしょう。
作成したマニュアルは、単に書類として保管するだけでは意味がありません。定期的な教育・訓練を通じて、全従業員にマニュアルの内容を深く理解してもらう必要があります。事故は突然に起こるものです。いざというときに迷わず行動できるよう、日頃から意識を高めておくことが肝要です。
事故発生時の具体的対応手順
事故が発生したら、負傷者の救護を最優先です。
- 負傷者の救護を最優先
負傷者の様子や事故の状況などに応じて緊急の場合は救急車を手配します。軽いけがと思われる場合でも病院に付き添うことが重要です。 - 警察(110番)への通報
怪我の有無や事故の大小を問わず必ず連絡します。自動車保険を利用する際に必要となる「交通事故証明書」を発行してもらえます。 - 保険会社への連絡
実況見分が終わった段階で速やかに連絡します。事故発生の日時、場所、道路状況、事故発生の状況を詳しく報告し、保険の適用範囲や示談交渉の進め方について指示を仰ぎます。
ドライブレコーダーの重要性と事故原因の徹底究明
2024年から、事業用自動車における映像記録型ドライブレコーダーの重要性がさらに高まっています。ドライブレコーダーは事故やニアミスなどにより急ブレーキ等の衝撃を受けると、その前後の映像とともに、加速度、ブレーキ、ウインカー等の走行データをメモリーカード等に記録します。
事故発生直後は、現場の写真撮影、目撃者の確認、ドライブレコーダーのデータ保全など、記録を残す作業を迅速に行いましょう。ドライブレコーダーやデジタルタコグラフのデータを詳細に分析し、なぜ事故が起きたのかを突き止めます。
運転者のヒューマンエラーが原因であれば、運転者教育の改善や適性診断の実施などの対策が求められます。車両の不具合が事故につながったのであれば、整備体制の見直しや車両更新計画の前倒しなどを検討することができます。
2024年問題を踏まえた安全管理体制の見直し
2024年4月からの働き方改革関連法の施行により、トラックドライバーの時間外労働時間が年960時間に制限されています。この変化を踏まえ、限られた労働時間の中で安全性を確保するための体制見直しが必要です。疲労管理、運行計画の最適化、代替手段の確保など、新しい労働環境に適応した安全対策を検討することが重要です。
事故対応の最も重要な目的は、同種の事故を二度と起こさないことにあります。事故の発生を単なる不運としてみなすのではなく、組織の安全管理体制の不備を浮き彫りにするものと受け止める必要があります。
事故を他人事として片付けるのではなく、会社全体で真摯に受け止め、安全性向上のために何をすべきか議論することが大切です。事故を安全体質に変えるための貴重な機会ととらえ、継続的な改善に取り組みましょう。
参考:厚生労働省|自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示)
参考:国土交通省|安全教育・事故防止マニュアルを活用しよう!
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5.安全管理でペナルティを回避し企業価値を高めよう
運送事故は2024年10月から強化された行政処分や損害賠償など深刻なペナルティを招いています。しかし運輸安全マネジメント制度の実践やドライバー教育の充実、先進安全技術の導入により事故は防げます。緊急時対応マニュアルの整備も重要です。
安全運転の徹底は単なるリスク回避ではなく、2024年問題で変化する業界構造の中で顧客の信頼を獲得し、企業価値を向上させる重要な経営戦略です。安全最優先の経営を地道に貫くことこそが、運送会社の持続的成長への道筋を切り拓くのだと、経営者は肝に銘じる必要があります。
▼免停からの復活方法
以下の記事では、運転免許失効後の再取得方法を期間別に解説しています。手続きの流れや必要書類、費用を抑える方法まで詳しく紹介しているので、ぜひ参考にしてください。