バス運転手は、多くの人の移動を支える重要な役割を担っていますが、仕事内容は単に運転するだけではありません。
乗客の安全を第一に考えながら、時間通りに運行することが求められ、時には予測不能な事態にも冷静に対処しなければなりません。
バス運転手の仕事はやりがいがある反面、肉体的・精神的な負担も大きいと言われています。
本記事では、バス運転手の仕事の実態や必要な資格、向いている人の特徴、そしてメリットについて詳しく解説します。
- バス運転手の仕事内容と求められるスキル
- バス運転手に必要な資格と向いている人の特徴
- バス運転手の仕事のメリットとデメリット
1.バスの運転手はやめとけと言われる理由
「バス運転手になりたい」と思って情報収集をすると、「バス運転手はやめとけ」「きつい」「しんどい」など、ネガティブな言葉を見聞きすることがあります。バス運転手がこのように言われる理由はなぜでしょうか。
交通事故のリスクがある
バス運転手の仕事で第一に不安なことは、交通事故のリスクがあることです。多くのお客様を乗せるバス運転手には、交通事故を起こさないように常に安全運転を心がける責任があります。
しかし、どれだけ運転が上手でも、事故に気をつけていても、毎日長時間運転していれば、他人の過失や予期せぬトラブルで事故に遭ってしまう可能性はどうしても排除しきれません。
自分の運転能力に関しても、加齢と共に衰えが出てくることが想定されます。
利用者からの苦情
利用者からの苦情も、バス運転手の仕事がきついと感じてしまう一因です。バス運転手には、日々多くのお客様と接するサービス業という側面もあります。
そうしてお客様と接する中では、ときに理不尽なクレームを受けたり、威圧的な態度を取られたりしてしまうこともあります。
例えば、バスは道路の混雑具合やお客様対応などで、どうしても時刻表通りに運行できないことも珍しくありません。
しかし、お客様の中にはそんなことは考慮せずに運転手へ厳しい言葉を投げかける方もいます。こうした苦情に遭遇すると、気持ちがくじけてしまいがちです。
運転がストレスになる
運転そのものがストレスになることも少なくありません。運転が嫌いでバス運転手になる方はあまりいないと思いますが、プライベートで運転するのと仕事で運転するのとでは、まったく勝手が違います。
特にバスは普通の車両よりも大きく、多くのお客様の命を預かっているため、そこで求められるスキルや集中力、責任感は非常に大きくなります。
「ずっと同じ姿勢で運転しているから腰痛になりやすい」「乗務中はトイレに行きにくい」など、肉体的にもきつい面があります。
また、ドライブレコーダーの存在がプレッシャーになる方もいます。ドライブレコーダーは事故やトラブルを記録するための重要な機器ですが、バス運転手の中にはそれによって自分が常時監視されているようでストレスを感じてしまう方もいるようです。
休日が多くなく勤務時間も長い
これは会社にもよりますが、休日の少なさや勤務時間の長さもバス運転手の欠点として挙げられます。
特に運転手不足の会社や繁忙期に当たる時期だと、バスを稼働させるためにあまり休めないことが多いです。バスは平日以外も運行しているため、土日に出勤することも珍しくありません。
また、高速バスの場合、交代要員がいてもバスに乗っている必要があることは変わらないので、拘束時間が長くなりがちです。
さらに、バス運転手はシフト制での勤務が一般的で、生活リズムが不規則になりやすいので、そのせいで心身のリズムを崩してしまう方もいます。
2.バス運転手が運転できるバスの種類
一口にバスと言っても、実際にはさまざまな種類があります。バスの種類に応じて仕事内容はもちろん、必要な資格も異なります。以下では、主なバスの種類と必要な資格について解説します。
バスの種類
バスの種類は、主に「路線バス」「高速バス」「観光バス」「送迎バス」の4種類あります。それぞれの特徴は以下のとおりです。
路線バス
最も身近なバスは、主に一般道を運行し、町中のバス停に停まる路線バスです。
地域住民の生活を支える重要な公共交通手段として、毎日決まったルートを走行します。高齢者から幼児まで多様なお客様を乗せるのが特徴です。
高速バス
路線バスの中でも、高速道路を利用して長距離を移動するのが高速バスです。
飛行機や新幹線よりも安価な移動手段として、多くの方に利用されています。高速バスは夜間運行も多いので、運転手には強い体力が必要です。
観光バス
観光地やイベント会場などに向かう乗客を運ぶのが、おなじみの観光バスです。
観光ツアーや修学旅行などで利用され、バスガイドなどが同乗することもあります。旅行シーズンに応じて繁忙期と閑散期がはっきりしていることも特徴です。
送迎バス
企業や学校、幼稚園、介護施設などで利用者の送迎のために使われるのが送迎バスです。
路線バスなどと違いお客様は固定メンバーが多くなるので、顔なじみとして声をかけられる機会も多くなります。そのため、ある程度の社交性があった方が望ましいです。
バス運転手に必要な資格
バス運転手として必要になる資格は、バスの種類や就職先によって違います。ここでは、ケースごとに必要な資格を解説します。
施設・学校などの送迎バス運転手を務める場合
施設や学校などに就職して、そこの施設が所有する車で送迎バスの運転手を務める場合、必要な免許は通常の普通自動車一種免許または中型・大型自動車一種免許で運転可能です。
普通~大型のどの免許が必要かは、バスのサイズによります。定員10人以下の車をバスとして使う場合は、通常の普通免許で十分です。
バス会社に就職して路線バスなどを運転する場合
バスを運行する会社に就職して運転手となる場合、路線バスなどはもちろん、送迎バスでも大型二種免許が必須です。
二種免許は、運賃をもらって車に他人を乗せるために必要な免許で、国土交通省が定める「旅客自動車運送」に該当する業務に就くには必ず取得しなければいけません。なお、タクシー運転手の場合は、普通二種免許を取得します。
3.バス運転手に向いている人の特徴
バス運転手には特有の職務やきつさがあるため、長く勤めるためには向き不向きがあります。
では、バス運転手に向いている人は、どのような特長を持っているのでしょうか。
状況判断・時間管理ができる
第一に重要なのは、適切に状況判断や時間管理ができることです。
お客様の命を預かるバス運転手は、渋滞や事故、悪天候といった予測不可能な事態に対しても冷静に対処することが求められます。
もちろん、お客様の介助やトラブルなどへ適切に対応することも欠かせません。
さらに、正確な時間管理能力も重要です。バスの種類がなんであろうと、バス運転手に基本的に求められるのは時間通りにバスの運行ができる能力です。
特に路線バスや高速バスの場合、数分の遅れでもお客様にとって大きな迷惑になり、結果としてクレームにつながることが少なくありません。
とはいえ、定刻通りに運転しようと焦るあまり安全運転をおろそかにすることは許されないので、その点でも冷静な判断能力が必要です。
運転が好き
運転が好きなことも大切です。バス運転手の仕事は、長時間にわたる運転が日常的に求められます。
そのため、運転が苦になるような人なら、あっという間に仕事が嫌になってしまいます。
うんざりしながら毎日運転をすることは注意力の欠如や荒っぽい運転につながりやすいですし、その人自身にとっても不幸なことです。
また、大きなバスを安全かつ快適に運行するためには高度な運転技術が必要ですが、その点でも運転が好きなことは役立ちます。
「好きこそものの上手なれ」という言葉があるとおり、人間は好きなことの上達には自然に熱心になり、物覚えが良くなるのは事実です。
そのため、車の運転が好きなことは、それだけでもバス運転手として一定以上の適性があることを意味します。
4.バス運転手の魅力・メリット
バス運転手の仕事に就くかどうか正しく判断するためには、良いところと悪いところの両方を知ることが重要です。
上記のとおり、バス運転手の仕事には厳しい側面もありますが、その一方で魅力やメリットも数多くあります。
採用ハードルが高くない
バス運転手の第一のメリットとしては、採用ハードルがあまり高くないため、多くの方が挑戦しやすいことが挙げられます。
多くのバス会社は運転手を採用するにあたって、学歴を重視することはそれほどありません。
重要視するのは、「必要な運転資格を持っているか」「運転の経験やスキルは十分か」「信頼できる人柄か」といった要素です。資格に関しても、先述のとおり、送迎バスの場合は普通免許で事足りる場合さえあります。
また、雇用形態もさまざまで、正社員だけでなく派遣として働いている方もいます。
近年は運転手が不足している影響もあり、定年退職後も働けるケースが増えてきていることも注目すべき点です。
新卒からシニア層まで、幅広い年齢層の方がバス運転手として活躍しています。
また、バス会社によっては大型免許や大型二種免許を取得するための費用を一部または全額補助する規定があります。
その際、普通免許の所持は必須ですが、AT限定では不可という場合もあるので注意が必要です。また、所定の期間の勤続を義務付けるのが通常です。
人間関係の面倒ごとがない
バス運転手の魅力として、職場の人間関係で悩むことが少ない点も挙げられます。
基本的に一人で業務を行うため、上司や先輩社員などに気を使ってストレスを溜めるシーンは他の仕事に比べると少ないです。
特に路線バスでは、他の運転手や添乗員が同乗することはまずないため、自分の裁量で仕事を進められます。
ただし、観光バスの場合はバスガイドらとの連携が必要になることもありますし、お客様への対応が求められることもあるため、社交性が全然なくてもいいというわけではありません。
とはいえ、総じてみれば、バス運転手の仕事は人間関係で面倒ごとを抱えることは少ないです。
残業が少ない
バスの運転手は運行スケジュールが非常に細かく決められているため、基本的に残業は少ないです。仕事内容がバスの運転である以上、持ち帰るような仕事もありません。
もちろん、交通状況や突発的なトラブルによって残業が発生することはありますが、それはあくまで例外的な状況です。
そのため、バス運転手は定時に仕事を終えられることが多く、プライベートの時間を確保しやすいのが特徴です。
ノルマがない
バス運転手のメリットとしては、営業ノルマがないことも挙げられます。
運転手という点は同じでも、例えばタクシーの場合は歩合制のことが多いため、売上を向上させるためには熱心に営業することが欠かせません。
このノルマがきつくて強いストレスを感じてしまう方もいます。
それに比べて、バス運転手には営業ノルマがないため、「売上目標を達成せねば」というプレッシャーを感じず、ただ純粋に時間厳守で安全運転することに集中できます。
ノルマを気にせず「運転」という自分の本分のみに集中できる環境は、特に運転が好きでバス運転手になった方にとっては大きな魅力です。
福利厚生が充実
バス運転手は給料が安い、という言説が流布しています。
実際、求人サイトなどによる統計では、日本における平均収入よりやや低いという数値が示されることもあります。
しかし、「○○市バス」のような公営のバスの運転手に採用されれば地方公務員ですので身分は安定しますし、民営でも国土交通省が定める「働きやすい職場認証制度」の認証を受けるなど労働環境に配慮する会社も増えています。
また本人はもちろん家族にも、関連会社の優待利用ができる制度のある会社も多いです。
合わせ読みたい
5.バス運転手として働くこと
バス運転手の仕事は、多くの人の移動を支える重要な役割である一方、交通事故のリスクや利用者からの苦情、運転そのもののストレスなど、肉体的・精神的な負担も大きいことがわかりました。
しかし、運転が好きで状況判断や時間管理ができる人にとっては、やりがいのある仕事だと言えるでしょう。
また、採用ハードルが高くなく、人間関係の面倒ごとが少ない、残業が少ない、ノルマがないなど、メリットも多くあります。
バス運転手を目指す際は、自分との相性やライフスタイルを考慮し、メリットとデメリットを十分に理解した上で決断することが大切です。