近年の自動車整備士業界では、高齢化や若手不足による深刻な人手不足が課題となっています。その解決策として、外国人整備士の採用が注目されています。
しかし、外国人を雇用するには、日本の「在留資格(ビザ)」制度の正しい理解が不可欠です。
この記事では、外国人整備士の採用に必要な主要な3つの在留資格を比較し、特に注目される「特定技能」の活用ステップや、採用後の労務管理上の注意点について、平易に解説します。
- 外国人整備士を採用するための主要な3つの在留資格の違い
- 「特定技能」ビザで自動車整備士を採用する具体的な流れと企業側の要件
- 外国人材を雇用する際のメリットと採用後に注意すべき労務管理上のポイント
1.深刻化する自動車整備士の人手不足と外国人材の可能性

日本の自動車整備業界は、整備士の平均年齢の上昇と、厳しい労働環境のイメージなどから若手の確保が難しくなり、恒常的な人手不足に直面しています。
この状況は、日々の業務遂行だけでなく、技術の承継という面でも大きな課題です。
こうした背景の中、意欲ある外国人材の活用が、人手不足を解消し、整備工場の活力を維持するための重要な戦略となっています。
特に政府は、人手不足が深刻な分野において、専門的な技術を持つ外国人の受け入れを促進する制度を整備しており、「自動車整備」分野もその一つとして明確に位置づけられています。
2.外国人整備士の採用で知っておくべき3つの在留資格(ビザ)
外国人を雇用する際、最も重要なのが「在留資格」です。
在留資格とは、外国人が日本に滞在し、活動するための法的な許可証であり、資格ごとに許可される業務内容や滞在できる期間が厳しく定められています。
自動車整備士として外国人を採用する場合、主に以下の3つの在留資格が選択肢となります。それぞれの目的や特性が異なるため、自社のニーズに合った制度を選ぶことが不可欠です。
1.【即戦力・長期雇用】特定技能
2019年4月に新設された在留資格で、深刻な人手不足に対応するため、特定の産業分野(自動車整備分野を含む)において、一定の専門性・技能を持つ外国人の受け入れを認めるものです。
この要件により、採用時点で**一定レベルのスキルが担保**されています。
企業は安定した人材確保と育成計画を立てやすくなります。
2.【育成・国際貢献】技能実習(育成就労)
技能実習制度は、日本が先進国として培った技術や知識を開発途上国へ移転し、その国の経済発展を担う「人づくり」に貢献することを目的とした制度です。
※なお、技能実習制度は2024年6月の国会で改正法が成立し、人材確保と育成を目的とする「育成就労」制度へ移行することが決定しています。今後は制度の変更点にも注意が必要です。
3.【専門職・大卒者】技術・人文知識・国際業務
一般的に「技・人・国(ぎじんこく)」と呼ばれる在留資格です。大学や専門学校で学んだ専門的な知識・技術を活かす業務に従事する場合に取得できます。
参考|国土交通省:自動車整備分野における「特定技能」の受入れ、国土交通省:自動車整備業における外国人技能実習生の受入れ
3.どの在留資格を選ぶべきか? 3制度の比較と選択のポイント
これら3つの制度は、目的も要件も大きく異なります。自社の状況に応じて最適な制度を選択することが、採用成功の第一歩です。

企業が「即戦力となる整備士をすぐにでも確保したい」と考えるならば、試験に合格した「特定技能」人材が最も適しているでしょう。
一方で、未経験からでも自社でじっくり育てたい、あるいは国際貢献に主眼を置く場合は「技能実習(育成就労)」が選択肢となります。
4.【企業向け】特定技能「自動車整備」採用の完全ステップガイド
ここでは、即戦力採用としてニーズの高い「特定技能(自動車整備)」に絞り、企業側(受け入れ機関)が踏むべきステップを解説します。
5.外国人整備士を採用するメリットと注意点

最後に、外国人材を採用する上でのメリットと、特に注意すべき労務管理上のポイントを整理します。
採用のメリット:人手不足解消と組織の活性化
最大のメリットは、若手人材の確保による人手不足の解消です。
また、異なる文化背景を持つ人材が加わることで、職場内のコミュニケーションが活性化し、日本人従業員にとっても良い刺激となる(ダイバーシティの推進)といった副次的な効果も期待できます。
採用後の注意点:コミュニケーションと労務管理
一方で、言語や生活習慣の違いから生じるコミュニケーション上の課題は、採用前に想定しておく必要があります。
また、最も強調したいのは、「外国人であっても日本人と全く同じ労働法規が適用される」という点です。
これらの労務管理を怠ると、法律違反となるだけでなく、外国人の不法就労を助長したとして企業側も厳しく罰せられる(不法就労助長罪)可能性があります。
6.自社に合った制度選択が採用成功の鍵
自動車整備士の人手不足は深刻ですが、外国人材の採用はその有効な対策の一つです。
成功の鍵は、今回ご紹介した「特定技能」「技能実習(育成就労)」「技術・人文知識・国際業務」という3つの制度の違いを正しく理解し、自社の目的や状況に最も合った制度を選択することにあります。
特に特定技能制度は、即戦力を確保する上で有効ですが、受け入れ企業側にも協議会への加入や支援計画の策定といった義務が伴います。
在留資格の手続きや採用後の労務管理は専門的で複雑な側面があります。
不安な点があれば、外国人雇用に詳しい社会保険労務士や行政書士などの専門家に相談し、法的なリスクを回避しながら採用活動を進めることをお勧めします。