タクシー回送とは、表示灯に「回送」と出ているタクシーが営業を一時的に止めており、新しいお客様を乗せられない状態のことです。手を挙げたのに素通りされて、モヤモヤした経験がある方も多いのではないでしょうか。回送表示には、休憩や帰庫といった労務上の事情、車両の安全確保、そして法令で決められた表示ルールという明確な理由があります。
この記事では、利用者の方に向けて回送タクシーに乗れない理由や「乗車拒否」との違いをわかりやすく解説します。あわせて、現役ドライバーやこれからタクシードライバーを目指す方に向けて、現場で守るべき3つの表示ルールを法令に沿って紹介します。
- タクシーの回送表示の意味と、空車・迎車など他の表示との違い
- 回送表示が違法な乗車拒否に当たらない理由と、法令上の位置づけ
- プロドライバーが守るべき3つの表示ルールと、回送中に手を挙げられたときの対応
1.タクシーの回送とはお客様を乗せられない非営業の状態

そもそも「回送」とは、乗客や荷物を乗せずに車両を移動させることを指す言葉です。タクシーの表示灯が「回送」になっている場合、その車両は営業を一時的に休止しています。回送表示はドライバーの気分で自由に出せるものではなく、法令で使える場面が決められています。まずは回送の意味と、ほかの表示との違いを確認しましょう。
回送表示のタクシーには原則として乗車できない
フロントガラス付近の表示灯(スーパーサイン)に「回送」と出ているタクシーは、営業していない状態です。そのため、路上で手を挙げても原則として乗ることはできません。
路上で乗れるのは、基本的に「空車」表示のタクシーです。回送中のタクシーは次のお客様を探して走っているわけではなく、休憩や帰庫などのために移動しています。
回送・空車・迎車など表示灯の違いと見分け方
タクシーの表示灯には「回送」以外にもさまざまな種類があります。主な表示と、路上で乗れるかどうかを一覧にまとめました。表示の意味は、地方運輸局などが定める表示の取り扱いに沿っています。
| 表示 | タクシーの状態 | 路上で乗れるか |
|---|---|---|
| 空車 | お客様を乗せていない営業中の状態 | 乗れる |
| 実車(賃走) | お客様を乗せて走行している状態 | 乗れない |
| 割増 | 深夜・早朝など割増運賃を適用している状態 | 「空車」と一緒に表示されていれば乗れる(割増運賃が適用) |
| 迎車 | 迎車料金を適用する車両が、配車の依頼を受けて指定の場所へ向かっている状態 | 乗れない |
| 予約 | 迎車料金を適用しない車両が指定の場所へ向かっている状態や、お客様の都合で待機している状態 | 乗れない |
| 貸切 | 時間制運賃を適用して運行している状態 | 乗れない |
| 観光 | 観光ルート別運賃を適用して運行している状態 | 乗れない |
| 定額 | 定額運賃を適用して運行している状態 | 乗れない |
| 回送 | 食事・休憩・燃料補給などで運送を引き受けられない状態や、乗務の終了などで車庫・営業所へ戻っている状態 | 原則乗れない |
| 救援 | 救援事業の業務のために走行している状態 | 乗れない |
| 代行 | 自動車運転代行業の随伴車として使われている状態 | 乗れない |
| 貨物運送 | 貨物を運んでいて、お客様を引き受けられない状態 | 乗れない |
| 支払 | 目的地に着き、料金を精算している状態 | 乗れない |
| SOS | 強盗などのトラブルで、ドライバーが外部に助けを求めている状態 | 乗れない(警察へ通報) |
「空車」から「貨物運送」までは、国の地方運輸局などが定める表示の取り扱いに記載されている表示です。「支払」「SOS」は、これとは別に多くの車両で使われている表示です。
なかでも「SOS」は、車内で強盗や暴行などのトラブルが起きていることを知らせる緊急の表示です。見かけたときは、車に近づかず、安全な場所から速やかに警察(110番)へ通報してください。
表示の名称や色は、地域や車両の機器によって異なる場合があります。たとえば東京では、空車は赤文字、迎車や回送などは橙色または識別しやすい色の文字で表示するルールです。
以前は迎車や回送も橙色に限られていたため、空車と色が似ていて見分けにくく、空車だと思って近づいたら迎車だったという声が利用者から寄せられていました。色だけで判断せず、表示されている文字まで確認するのが確実です。
参考:東京ハイヤー・タクシー協会|令和5年度 事業報告
参考:国土交通省 東北運輸局|一般乗用旅客自動車運送事業の事業用自動車の表示等に関する取扱いについて
2.タクシーが空車ではなく回送表示で走る主な理由

タクシーが営業せずに走る背景には、勤務時間の管理から車両の安全確保まで、いくつかの理由があります。主な4つのケースを見ていきましょう。
乗務を終えて営業所や車庫へ戻るため(帰庫)
代表的なのが、1日の乗務を終えて営業所や車庫へ戻る「帰庫」のケースです。旅客自動車運送事業運輸規則では、乗務の終了などで車庫や営業所に戻る場合には回送板を掲出することが定められています。
タクシードライバーの勤務時間は、事業者が国の基準に沿って定めることになっています。さらに、地方運輸局長が指定する一部の地域では、1回の乗務(出庫から帰庫まで)で走れる距離の上限も定められています。
帰庫の時間が近づいたタクシーは、勤務時間や乗務距離の管理の観点から新たなお客様を乗せずに戻ることになります。
食事や休憩をとるため
食事や休憩のためにお客様を乗せられない場合も、回送板を掲出するよう運輸規則で定められています。休憩場所へ向かう途中や休憩中のタクシーが回送表示になっているのはこのためです。
タクシードライバーの拘束時間や休息期間は、労働基準法に加えて「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示)」で定められています。2024年4月からは改正後の基準が適用されています。適切な休憩は、疲労による事故を防ぎ、安全な運行を続けるための前提です。
参考:e-Gov法令検索|旅客自動車運送事業運輸規則
参考:厚生労働省 自動車運転者の長時間労働改善に向けたポータルサイト|ハイヤー・タクシー運転者の改善基準告示
車両トラブルや点検で営業を続けられないため
走行中に車両の不具合やメーターの故障が見つかった場合、そのまま営業を続けるのは危険です。点検や修理のために営業所や整備工場へ向かう際は、営業を中断して回送状態になります。
燃料補給や、車内に残されたお客様の忘れ物を営業所へ届ける場合など、一時的に運送を引き受けられない場面もあります。表示の細かな取り扱いは地域ごとに運輸局などが定めており、たとえば宮城県の取り扱いでは、食事・休憩に加えて燃料補給なども回送を表示する場面として明記されています。
参考:国土交通省 東北運輸局|一般乗用旅客自動車運送事業の事業用自動車の表示等に関する取扱いについて
営業区域の外から区域内へ戻る途中であるため
タクシーには、地方運輸局長が指定する「営業区域」があります。道路運送法では、出発地と目的地の両方が営業区域の外になる運送は禁止されています。そのため、お客様を乗せて区域外へ出たタクシーは、自社の区域内へ向かうお客様でなければ乗せることができず、区域に戻るまでは実質的に営業が制限されます。
営業区域は、市町村単位や、複数の市町村をまとめた「交通圏」単位で設定されています。都市部では隣の市が別の営業区域ということも珍しくありません。そのため、区域外まで送ったタクシーが、お客様を乗せずに戻ってくる場面はよく見られます。
データで見るとタクシーは走行距離の半分以上をお客様なしで走っている
全国ハイヤー・タクシー連合会の資料によると、令和5年度の実車率(走行距離のうち、お客様を乗せて走った距離の割合)は、東京(特別区・武三地区)で47.8%、大阪で46.5%、名古屋で43.1%でした。
大都市のタクシーでも、走行距離の半分以上はお客様を乗せずに走っている計算になります。なお、同年度のタクシーの年間輸送人員は約9億9,400万人です。
この「お客様を乗せていない走行」には、空車での流し営業だけでなく、迎車や回送も含まれます。街中で回送や迎車のタクシーをよく見かけるのは、タクシーの仕事の仕組み上、自然なことだといえます。
参考:全国ハイヤー・タクシー連合会|TAXI TODAY in Japan 2025
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実車率のような走行距離の内訳は、タクシードライバーの収入の仕組みとも深く関わっています。以下の記事では、タクシードライバーの4つの代表的な給与体系の特徴を解説していますので、あわせてご覧ください。
3.タクシーの回送表示と違法な乗車拒否の違い

回送のタクシーに乗れないことを「乗車拒否ではないか」と感じる方は少なくありません。しかし法律上、正当な理由による回送表示と、違法な乗車拒否には明確な線引きがあります。
道路運送法第13条の運送引受義務と「正当な理由」
道路運送法第13条(運送引受義務)では、タクシー事業者は法令で定める場合を除き、運送の引き受けを拒んではならないとされています。お客様が「空車」のタクシーを止めたのに、近距離だから、行き先が面倒だからといった理由で断ることは、この義務に反するおそれがあります。
一方で、食事・休憩や乗務の終了による帰庫などで回送を表示している状態は、そもそも営業を行っていない状態です。そのため、法令に沿った回送表示のタクシーが通り過ぎることは、違法な乗車拒否には当たらないと考えられています。
回送表示は乗車拒否の抜け道として使えない
旅客自動車運送事業運輸規則では、回送板を掲出するのは食事・休憩の場合や、乗務の終了などで車庫・営業所へ戻る場合とされ、それ以外の場合に回送板を掲出してはならないと定められています。
つまり、お客様を選ぶ目的で回送に切り替えることは、表示ルールそのものに反する行為です。東京の表示の取り扱いでも、回送は定められた場合以外に表示・掲出してはならないと明記されています。
利用者から見ると「目の前で回送に変わった」ように見えても、実際には休憩や帰庫の時間だったというケースもあります。反対に、正当な理由がないのに回送を装っていた場合は、事業者への指導や処分の対象となり得ます。
参考:e-Gov法令検索|旅客自動車運送事業運輸規則
参考:国土交通省 東北運輸局|一般乗用旅客自動車運送事業の事業用自動車の表示等に関する取扱いについて
参考:国土交通省 関東運輸局 東京運輸支局|東京都内に配置するハイヤー・タクシー車両の表示等に関する取扱について
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法令に沿った正しい表示の運用や休憩の取り方は、タクシードライバーの働き方そのものと深く関わっています。以下の記事では、タクシー運転手の勤務時間や3つの勤務体系、平均収入について詳しく解説しています。
4.回送でも乗れる?利用者が知っておきたい例外と対処法

回送タクシーには原則として乗れませんが、タイミングによっては例外もあります。また、空車がなかなか見つからないときの対処法も知っておくと安心です。
表示の切り替え直後や切り替え忘れの場合
休憩明けに空車へ戻し忘れている場合や、会社の運用上対応できる状況であれば、ドライバーの判断で乗せてもらえることがあります。ただし、回送は本来お客様を乗せない状態です。止まってくれなくても、ドライバーには休憩や帰庫といった事情があると理解しておきましょう。
また、回送のタクシーを無理に止めようとして車道に出るのは危険です。安全な歩道上で、次の空車を待つようにしてください。
空車が見つからないときは配車アプリや電話予約を活用する
回送や迎車のタクシーばかりで空車が見つからないときは、流しのタクシーを待ち続けるより、配車アプリやタクシー会社への電話予約を利用するのが近道です。駅や商業施設のタクシー乗り場を利用する方法もあります。
配車アプリで呼んだタクシーは、お客様のもとへ向かう間「迎車」表示で走ります。街中で迎車のタクシーが増えているのは、こうした配車の利用が広がっていることも背景の一つです。
5.タクシードライバーが守るべき回送表示の3つのルール

ドライバーにとって、表示灯の操作はお客様からの信頼と法令順守に直結する大切な業務です。ここでは、現場で意識したい3つのルールを紹介します。
ルール1:業務の状況が変わったらすぐに表示を切り替える
表示灯は、今の車両の状態を街に知らせる看板です。休憩に入る、帰庫を始める、配車を受けるなど、業務の状況が変わった時点で速やかに表示を切り替える習慣をつけましょう。
切り替えが遅れると、休憩に向かうつもりの車両が「空車」のまま走ってしまい、手を挙げたお客様とのトラブルにつながります。逆に、休憩明けに回送のまま走り続けると、乗れるはずのお客様を逃すことになります。
ルール2:回送表示は認められた場面だけに使い、配車時は迎車表示にする
前述のとおり、運輸規則では回送板を掲出できる場面が決まっています。アプリや無線の配車でお客様を迎えに行くときは「回送」ではなく「迎車」を表示するなど、状況に合った表示を選ぶことが大切です。状況ごとの表示の目安は次のとおりです。
| 業務の状況 | 表示の目安 | 注意したい点 |
|---|---|---|
| お客様を乗せて走行中 | 賃走(実車) | メーターを正しく操作してから走り出す |
| アプリ・無線の配車に向かう | 迎車 | 回送表示で代用しない |
| 食事・休憩に向かう、休憩中 | 回送 | 休憩が終わったらすぐに空車へ戻す |
| 乗務を終えて車庫・営業所へ戻る | 回送 | 帰庫時間から逆算して早めに判断する |
| 車両の不具合で営業所・整備工場へ向かう | 回送 | 会社(運行管理者)の指示に従う |
| 燃料補給で一時的に営業できない | 回送 | 地域の表示の取り扱いと会社のルールを確認する |
| 上記以外で営業できる状態 | 空車 | 正当な理由なく回送にしない |
実際の運用は会社ごとのルールによっても異なります。判断に迷うときは、自己判断せずに運行管理者へ確認しましょう。
参考:e-Gov法令検索|旅客自動車運送事業運輸規則
参考:国土交通省 東北運輸局|一般乗用旅客自動車運送事業の事業用自動車の表示等に関する取扱いについて
ルール3:回送中に手を挙げられたら安全第一で誠実に対応する
空車から回送に切り替えた直後などは、お客様がまだ空車だと思って手を挙げることがあります。まずは急な停車や車線変更をせず、周囲の安全を最優先にしてください。
停車してお声がけできる場合は、「本日の業務を終えて車庫へ戻るところです」などと、回送の理由を丁寧に伝えましょう。会社のルール上お乗せできる状況であれば、表示とメーターを正しく賃走に切り替えたうえで対応します。表示やメーターを操作しないままお乗せすることは、表示ルールに反するおそれがあるため避けましょう。
勤務時間の上限が迫っている、営業区域外で目的地も区域外であるといった場合は、原則として引き受けられないため、事情を説明してお断りしましょう。
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誠実な接客対応や正確な状況判断は、タクシー運転手に求められる大切なスキルです。以下の記事では、タクシー運転手に向いている人の特徴や必要なスキルについて詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
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6.タクシーの回送に関するよくある質問

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「空車」のタクシーなのに止まってくれないのはなぜですか?
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交差点や横断歩道の付近など、道路交通法で停車が禁止されている場所では、空車でも止まれないことがあります。バス停の付近なども同様です。見通しがよく、安全に停車できる場所で手を挙げると止まってもらいやすくなります。
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不当な乗車拒否を受けたと感じたときは、どこに相談すればよいですか?
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まずは日時・場所・タクシー会社名・車両番号(ナンバー)など、わかる範囲の情報を控えておきましょう。そのうえで、タクシー会社の窓口や、地域を管轄する運輸支局などの行政窓口へ相談できます。東京など一部の地域には、タクシーに関する苦情を受け付けるタクシーセンターもあります。最新の相談窓口は、各機関の公式サイトで確認してください。
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タクシー以外の電車やバスの「回送」とは意味が違いますか?
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基本的な意味は同じで、お客様を乗せずに車両を移動させる運行を指します。電車やバスでは車庫や始発駅への移動などで回送運行が行われ、タクシーでは休憩や帰庫などの際に回送表示で走ります。どの交通機関でも、回送中の車両には乗車できません。
7.タクシー回送は休憩や帰庫による非営業状態、正しい表示の運用が信頼につながる
タクシー回送とは、休憩や帰庫、車両トラブルなどの理由で営業を一時的に止めている状態です。回送表示のタクシーには原則として乗れませんが、法令に沿った回送表示は違法な乗車拒否には当たりません。
一方で、回送表示を使える場面は運輸規則で決められており、ドライバーには正確な表示の運用が求められます。状況が変わったらすぐに切り替える、回送は認められた場面だけに使う、回送中に手を挙げられたら安全第一で誠実に対応する。この3つのルールを守ることが、お客様からの信頼と安全な運行につながります。
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