派遣ドライバーが事故を起こした場合、責任は派遣先・派遣元のどちらが負うのでしょうか。
実は、派遣という雇用形態の特性上、三者間で責任が複雑に絡み合い、想定外の賠償リスクを抱える可能性があります。
本記事では、統計データから見るドライバー事故の実態、法的責任の種類、具体的なケーススタディ、そして企業が講じるべき実践的なリスク対策まで、派遣ドライバーの事故に関する重要なポイントを網羅的に解説します。
- 派遣ドライバーの事故で派遣先・派遣元が問われる2つの法的責任
- 社用車・マイカー通勤など具体的なケース別の責任の所在
- 事故リスクを最小化するために企業が取るべき実践的対策
1.統計データが示す「ドライバー事故」の深刻なリスク

ドライバー業務にはどれほどのリスクが潜んでいるのでしょうか。交通事故統計から事業用貨物自動車の実態を確認し、派遣先企業が安全管理を重視すべき根拠を客観的データで示します。
交通事故発生状況と事業用貨物自動車の課題
令和2年度の事業用貨物自動車の交通事故は、負傷者数が減少するなど一定の改善傾向が見られるものの、飲酒運転事故の根絶には至っていない深刻な状況です。
交通事故件数
全体の交通事故が大幅に減少する中、業務用車両での飲酒運転が依然として発生していることは、運送業界全体の信頼性を著しく損なう重大な問題です。
ドライバーとしての自覚と責任が問われており、企業による厳格な管理体制の構築や、運転者への継続的な安全教育の徹底が急務といえます。
参考:公益社団法人全日本トラック協会|事業用貨物自動車の交通事故の発生状況
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派遣ドライバーの事故は責任問題が複雑化するのはなぜ?
ドライバーの事故では、通常「運転者(従業員)」と「会社(雇用主)」の間で責任の所在が問われます。
責任の所在
しかし、派遣ドライバーの場合は、以下の三者が存在します。
- 派遣ドライバー本人(運転者)
- 派遣元企業(雇用主)
- 派遣先企業(業務の指揮命令者)
派遣先企業は「雇用主」ではありませんが、ドライバーに対して具体的な運転ルートや荷扱いなどの「指揮命令」を行う立場です。
そのため、事故発生時には運転者の過失だけでなく、派遣元の安全教育体制や派遣先の指示内容も問われ、三者間で責任の割合を巡る複雑な法的問題が生じる可能性があります。
2.派遣ドライバーの事故で問われる2つの法的責任

派遣ドライバーの事故では「使用者責任」と「運行供用者責任」という2つの法的責任が問われます。それぞれの根拠法律、適用要件、責任範囲の違いを正確に理解しましょう。
責任①:使用者責任(民法715条)とは?
使用者責任とは
「ある事業のために他人を使用する者(使用者)」が、その人(被用者)の事業の執行について第三者に損害を与えた場合に負う賠償責任のこと
使用者責任が該当する要件
- ある事業を行うために他人を使用していること
- その事業の執行についての事故であること
- 使用されているもの(被用者)が第3者に対して何らかの損害を与えてしまったこと
派遣の場合、派遣元も賠償責任が発生する可能性がありますが、派遣先もドライバーに日常的な指揮命令をしているため、この「使用者」にあたると判断される可能性が高くなります。
参考:愛知県雇用労働相談センター|Ⅳ 派遣労働における労働基準法等の適用について/弁護士ドットコム株式会社|BUSINESS LAWYERS|派遣社員の不法行為と使用者責任 派遣先への損害賠償や判例は/就業規則の児島労務・法務事務所|業務上の自動車事故と“使用者責任”
責任②:運行供用者責任(自賠法3条)とは?
運行供用者責任とは
車両を所有し運行によって利益を得る者(運行供用者)が、その車両の事故によって他人に損害を与えた場合に負う賠償責任のこと
運行供用者に該当する人
- 自動車を所有している人
- 自動車を管理している人
- 運転者に対する指示・監視を行っている人
所有者でなくとも、車両の管理や運行をコントロールし利益を得る者(例:社用車を提供する派遣先)は「運行供用者」とみなされます。

この責任は、原則として人的損害のみが対象となります。
参考:AIG損害保険株式会社| 運行供用者責任とは?会社が問われる責任を社用車事故のケース別に解説
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3.【ケース別Q&A】派遣ドライバーの事故、責任は派遣先?派遣元?

社用車での業務中の事故、マイカー通勤中の事故など、実際に起こりうる具体的なシナリオをQ&A形式で解説。自社の状況と照らし合わせて責任の所在を確認できます。
(なお、本記事では「マイカー」を「自家用車」と同義で使用します)
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業務中に「派遣先の社用車」で事故を起こした場合、責任は?
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原則として、派遣先・派遣元の両方が責任を負う可能性が高いです。
同時に、自社の社用車を管理・提供しているため「運行供用者責任」も負うことになるでしょう。

もちろん、雇用主である派遣元も「使用者責任」を負うため、派遣先と派遣元が連帯して被害者に対して賠償責任を負う可能性が高いです。
物損か人損かによって、どちらの法律が適用されるかが変わってきます。
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「マイカー通勤中」に事故を起こした場合の責任は?
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派遣社員が車通勤中に事故に遭った場合、労災保険の給付を受けることができます。
治療費は車の保険を使用しますが、休業補償などは労災保険が適用されます。ただし、車の保険と労災保険の両方から二重に給付を受けることはできないため、どちらかを選択する必要があります。
重要な点として、派遣社員の労災申請は派遣先ではなく、雇用関係にある派遣元の会社を通じて行う必要があります。
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4.派遣先・派遣元が講じるべきリスク対策

法的リスクは事前対策で回避・軽減が可能です。派遣先は指揮命令者・車両管理者として、派遣元は雇用主として果たすべき役割と、最終防衛策となる保険について確認します。
派遣先企業が講じるべき対策
派遣先企業は「指揮命令者」「車両管理者」として、以下の対策が求められます。
「指揮命令者」としての対策
- 安全教育の実施・マニュアル整備
ドライバー(派遣・自社問わず)に業務として安全運転や事故対応を指示・教育する責任 - 指揮命令系統の明確化
ドライバーに無理のない運行スケジュールを指示し、業務を管理する責任
「車両管理者」としての対策
- 車両管理体制の整備
鍵の管理や管理台帳の記録など、社用車という「モノ」を直接管理する責任 - マイカー業務利用のルール策定
業務に使用する車両(マイカー含む)のルールを定め、管理する責任
派遣元企業(派遣会社)が果たすべき責任
派遣元は「雇用主」として、ドライバーの採用・教育段階での責任が問われます。

適切なドライバーの採用・教育に加え、派遣先と連携した労働時間・健康管理が必要です。
派遣先からも、派遣元がどのような安全教育を行っているかを確認することが望ましいでしょう。
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最終的な防衛策:推奨される保険の確認
万が一に備え、自社が加入している保険の内容を再確認することが最後の防衛策となります。
- 自動車保険(任意保険)
自社が所有・管理する車両が対象 - 使用者賠償責任保険
従業員(派遣ドライバーを含む指揮命令下の労働者)が起こした事故により、会社が法律上の賠償責任(使用者責任など)を負った際の損害をカバーする保険

自社の保険が、派遣ドライバーによる事故をカバーしているか、保険会社や代理店に確認しておくことをお勧めします。
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5.ドライバー派遣の事故リスクで企業が取り組むべきこと
派遣ドライバーの事故では、派遣先・派遣元の双方が使用者責任や運行供用者責任を問われる可能性があります。
責任の所在が複雑化するからこそ、事前の予防対策が重要です。派遣先は車両管理や安全教育の徹底、派遣元は適切な採用・教育を行い、両者が連携して労働時間や健康管理を実施しましょう。
加えて、自動車保険や使用者賠償責任保険の内容を確認し、万が一の事故に備えた体制を整えることが企業防衛の要となります。
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